中高生の「今しか描けない」絵がそこにある!
キャンパス アート アワード2023 最終審査レポート
全国の中学生・高校生が、「地元のイチオシ」を自由に描いて紹介するキャンパスアートアワード。グランプリ受賞作がキャンパスノートの表紙になるという、唯一無二の絵画コンテストです。
コクヨと読売中高生新聞(発行所 読売東京本社)による共同開催で、子どもたちの知性を育み、手書きの良さを伝えることを目的に、文部科学省と観光庁の後援のもと始まり、今年で9回目を迎えました。その最終審査が2023年10月26日、読売新聞東京本社(東京都千代田区大手町)にて行われました。
回を重ねるごとに内容がより充実してきているのが本アワードの特徴のひとつ。グランプリ受賞作品がキャンパスノートの表紙になり、それを目にした子どもたちに何らかのメッセージやエネルギーを与えているからかもしれません。今年の最終選考に残った入選作品は、いずれもどのコンテストに出しても受賞できるのではないかというほどの力作揃いでした。
地元の推しを発信して
コンテストのテーマは「My Sweet Home Town ~地元のイチオシ~」。地元の「推したい」風景や行事、食べ物、歴史などを自由に描いてほしいという意味ですが、そこには若者に地元に目を向け、その魅力に気付き、発信する機会にしてほしいという思いが込められています。
応募者は公式ホームページでエントリーし、2023年6月1日から9月13日までの間に作品を送ります。今年の応募総数は、2,281点にのぼりました。これを全国6地区に分けて予備選考が行われました。次に、中学生部門・高校生部門で各地域よりそれぞれ3点ずつ、合計36点の作品を選出する二次審査が行われました。この36作品が入選作品となります。ここから最終審査にてグランプリ(1点)、準グランプリである読売中高生新聞賞(1点)・コクヨ賞(1点)、地区優秀賞(6点)、審査員特別賞(3点)が選ばれました。
今年の審査員は、6回目となる色鉛筆画家の林亮太さん、3回目となるイラストレーターの中村佑介さん、初参加となるお笑いコンビ南海キャンディーズのしずちゃんです。
しずちゃんは小学生より絵を始め、今年は初の個展も開催しました。過去8回のグランプリ受賞作品が印刷されたキャンパスノートを見ると、「どれも個性的で、すごい」と一言。子どものみずみずしい感性や表現、あるいは大人顔負けの技術などに驚きの連続となるのが最終審査会です。
どんな作品が集まった?
テーブルに並べられた36作品を前に、審査員は思わず声をあげます。「うわー、またレベルが上がりましたね!」、「どれも上手で選べない」といったコメントから、「自分が中学生・高校生でこれほど描けていたら、苦労しなかったのに……」という、ご自身の軌跡と重ねた感想も聞かれました。
審査員は一枚一枚の絵と対話しながら、作者の思いや表現したいこと、技術を細かく見ていきながら、作者による解説文を読み、最終判断を下します。
結果発表
グランプリは見たことのない「ナマハゲ」
グランプリに選出されたのは、秋田県の高校2年生、佐藤那緒さんの「見守る神様」です。審査員一同が「こんな絵は見たことがない!」と声を上げた作品で、遠景で捉えたナマハゲが夕日を背に、田んぼの真ん中で佇んでいます。ナマハゲは秋田県・男鹿半島周辺の年中行事で、大晦日に仮面を付けた神の化身が「泣く子はいねが」と迫力たっぷりに叫びながら家々を訪ね歩く風習がよく知られており、描くならばその迫力ある表情をアップで捉えたくなるところ。でも佐藤さんが描いたのは、叙情性があり、憂いや優しさも感じさせるナマハゲでした。地元の人にとってナマハゲとは、豊作や無病息災をもたらす優しい神様なのだと教えてくれる表現力に驚かされました。
準グランプリは想像力の「北斎」とおいしそうな「小倉トースト」
準グランプリの「読売中高生新聞賞」は、長野県の中学3年生平松蒼大さんの「小布施仲よし農狂老人卍」です。葛飾北斎と彼を支援した小布施町の高井鴻山、北信濃に生まれ隣町の小布施で度々俳句を詠んだ小林一茶。小布施ゆかりの3名が顔を合わせて、軽トラに乗ったり、リンゴを採ったりさせてしまう平松さんの発想に誰もが驚きました。ありえない風景を想像させ、楽しませる絵の魅力が発揮された一枚でした。
同じく準グランプリ「コクヨ賞」は、愛知県の高校3年生 大薮ひなさんの「名古屋の小倉トースト」でした。食べ物を「イチオシ」として描く作品は多いですが、そのなかでもこの小倉トーストは一見して「おいしそう」と言いたくなる描写の見事さと、紫色で餡子を表現した巧みさ、優れた構図が高く評価されました。
——グランプリ作品「見守る神様」について、選ばれた理由を教えてください。
林さん:構図と色彩に惹かれました。このナマハゲはなぜここにいるのだろう。向こうから来たのか、下がっているのか、それだけでも物語性を感じます。黄色の使い方が印象的で、雲に当たる夕日の光と、手に持つ松明の光がシンクロしているのも見事。高校生とは思えない手練れで、こわいぐらいな印象を受けました。いい作品だと思います。
しずちゃん:ナマハゲを自分が描くなら、めちゃくちゃ迫力あるようにアップで描きたい。それを引いた視点で描くのが面白いと思いました。ナマハゲはいろいろな家に入って行くものなのに、この絵だと「来ない」(笑)。立ち止まってただ見守る感覚が、自分の知っているナマハゲと違って、いろんなストーリーを考えてしまいました。絵本になりそうで、話が広がる面白さがあります。
林さん:僕はこの絵は、今回は頭二つぐらい抜けている出来だと評価しました。技術の高さや色の調和もありますが、何を表現したいかという領域まで到達しているからです。もう完成されているとしかいいようがない。地元の人にとってのナマハゲが、単純に怖いだけではなく親しみもある事が描かれています。水田にあきたこまちを描いていますが、目立たせるのでなく、あえて引いた表現にしている部分にも大人の視点を感じます。
——読売中高生新聞賞「小布施仲よし農狂老人卍」は、いかがでしょうか?
林さん:文句なしに、僕の好きな作品です。モノクロームをベースに赤だけ彩色しているのも面白いですし、小布施の名産として栗ではなくリンゴを選んでいるのもユニーク。北斎・鴻山・一茶は、間違いなく地元の誇りでしょう。それを軽トラと組み合わせてしまうというのも面白いですね。
しずちゃん:そこにあるものじゃなくて、想像して描く、オリジナリティがあるなと思いました。この3名は同じ時代に顔を合わせたかもしれないけれど、軽トラはこの時代にはないから、ありえない組み合わせになっている、その独創性に驚きました。りんごだけ赤くしているのもポイントです。描き方も天才的なものを感じます。自分はこういう描き方はできないので、描いた人はどんな人なんだろう、と思ってしまいました。
中村さん:とにかく独創的だと全員が評価した作品でしたが、例えば「木の形」などあと少しだけ万人が評価できるポイントが伸びればグランプリになっていたと思います。この絵を描けるのは、誰でもないこの方がこの美意識を持っているからなんですね。つまり人の評価ではなく自分の評価基準で描いている。それがオリジナリティを生むのですが、自分が評価しなくなってもどうか絵を止めないで。来年もぜひ送ってきてほしいと願います。
——コクヨ賞「名古屋の小倉トースト」はいかがでしょうか?
林さん:会場で見た瞬間、人の本能を鷲づかみにするというか、「おいしそう」と(笑)。広告業界でいうシズル感があり、バンと飛び込んで来る絵です。高校生でこういうのが描けちゃうんですね。上から見た平面の図なのに、多層になっていて、バターがあり小倉があり、トーストがあり、その階層が非常に上手に描かれています。本能に直結するところを巧みに掴んでいる点と、テクニック的にも計算して描いている力量を評価しました。
しずちゃん:まず、おいしそうという印象でした。何回見てもおいしそうで、パンチ力がありました。本能に訴えかける何かがある。これはもう、選ばにゃしょうがない。ランチョンマットの色のかわいい感じも、いいなと思いました。
中村さん:絵を学ぶと、技術的なうまさを見せる方向へ流れがちですが、この絵のように、餡子がおいしそうとか、食べ物のあたたかそうな感じが伝われば、極論ですが技術はなくてもいい。食べ物はモチーフで使われることが多いですが、この作品だけが、「上手だね」だけでなく「おいしそうだね」と言われていました。作者は紫が好きで、餡子を実際よりも紫に寄せて描いたのでしょう。それでもおいしそうに見えているのは、すごいことだと感じました。
地区優秀賞6作品について、審査員からのコメントをご紹介します。
地域賞
北海道・東北地区 秋田県 高校2年生 齋藤絢心さん「どっこいしょー!どっこいしょー」
しずちゃん:秋田のお祭り「竿灯」を描いた絵で、提灯を下から見上げる構図は迫力があっていいな、パッと見て明るい提灯がきれいで目を引くな、と思いました。こんなノートがあったら欲しい。提灯も一つひとつきれいに描かれていて、素敵だなと感じました。
関東地区 神奈川県 高校2年生 二本柳明音さん「大山ゴマ販売中!」
中村さん:コマが精密に描かれていますね。角度のついた正しい楕円を塗るのは、めちゃくちゃ面倒くさいので普通は選ばない。この作品には圧倒されました。民芸品を上手に描くと古くさくなりがちなところ、高校生の感性で瑞々しく表現しているのも素晴らしいです。
中部地区 山梨県 高校2年生 深沢碧さん「ゴロゴロ」
林さん:輪郭をずらすように線画を重ね、巧みな色の使い方をしていて、ホワイトの使い方も上手です。さらに、寄せられたコメントが「ぱちん、と枝を断つ音が桃の旬の訪れを知らせます」とキャッチコピーのよう。コピーライティングの才能もありますね。非凡な才能と瑞々しさ、桃を商品として売り出す言葉と絵の両方で優れていました。
近畿地区 和歌山県 中学2年生 東花帆さん「目白」
林さん:毎年応募してくれる作品が増えていますが、彼女は去年、僕の個人賞を差し上げて印象に残っていました。同じ手法で今年もチャレンジし、さらに上手になって、最終選考に残るだけの力をつけてきた。モチーフの選び方も大人びた視点で、枝と梅という構図のほか、たなびく雲の処理も見事です。中学生でここまで描けるのはすごいこと。純粋に感動しました。
中国・四国地区 広島県 中学2年生 伊川凛さん「河の宝物」
中村さん:オオサンショウウオを描くならば、うまくみせようと形を正しく描きがちなところ、この作品は自分の思ったとおりに、ラフな感じで筆を運んでいるのに、雑にはなっていない。荒々しいタッチの方がオオサンショウウオの大きさや優雅さが表せると確信した上で仕上げています。色も絵の具の色をそのまま出して塗るのではなく、混色でコントロールし、雑なところがない。僕は原画を買いたいぐらい好きです。
九州地区 大分県 中学1年生 佐野聖さん「かぼす湯?」
しずちゃん:滝のしぶきに迫力があって、きれいに描かれています。人が描かれていて、そこに大きなかぼすがあるのが、ワクワクします。人がいることで、かぼすと人間という世界が広がるところが面白いと感じました。
審査員特別賞
〈林亮太賞〉愛媛県 中学1年生 播田柚咲さん「坊っちゃんと愛媛」
林さん:ダイナミックで目を引く作品です。色の使い方も上手ですね。よくここまで思い切った構図で描けたな、本当に中学生かと、感心しました。パースをとったように描き、ぐっと引き込む力がある。水彩の使い方も繊細で、小説の舞台から題材を取った点についても、中学生にしてはすごいところに目を付けたと感じました。
〈しずちゃん賞〉愛知県 中学3年生 鬼頭香汰郎さん「珍妙なコーチン」
しずちゃん:この作品は、見れば見るほど、いろいろなものが詰まっていて、面白い。ちょっと気持ち悪いかなという表現も好きで、この絵のエネルギーというか、刺激を受けました。自分は生き物が好きで、大きくバンと動物をよく描くんですけれど、自分が描きたい絵に近い感じがして。きれいというより、こういう表現が私は好きです。
〈中村佑介賞〉東京都 高校3年生 青山はる花さん「王子狐の行列」
中村さん:技術的にはグランプリでも遜色ないほどで、透明水彩ではないのに版画のようなグラデーションを出したり、金色を使わずに金色と感じさせるように表現したり、みんなが見過ごすような細かいことがたくさん詰まっています。ただ、王子の狐の行列の様子が、独自の行事として伝わりにくく、東京らしさという点がやや弱かった。技術点や努力点として、拍手を送りたいと思いました。
——今年の最終選考を終え、総評をお聞かせください。
林さん:年々、レベルアップしていくのを感じます。絵の中に入って行けそうな奥行き感がありました。純粋な気持ちで地元の一番いいものを探し、一生懸命に観察し、どう描こうか考える。でも好きだからこう描きたいという気持ちがバーっと出てくるから、こちらを圧倒するパワーが出るのでしょう。みなさんの世界観ができているということ。より心に訴えかけるものになっている感じがしました。
しずちゃん:自分がプロの先生方と一緒に審査していいのかな。批評なんてできないので、ただ自分が好きかどうか、「何これ?」という視点で選ばせてもらいました。中学生・高校生は子どもだと思っていたら、えらい絵を描くなぁというのが感想で、びっくりしました。どれも自分が描くことを想像すると、描けない絵ばかり。そんな描き方するの!?と思わされる絵もたくさんありました。それぞれ、その子のもっているものだと思います。
中村さん:コロナ禍からは一変し、最近は旅行客も増えています。みんな去年よりもリラックスしてモチーフ選びをしていて、日記的な作品が多かったですね。僕はそういうのが見たかったので、楽しかった。旅行した気分になりました。楽しませよう、笑わせようとしている作品もあり、ムードがよかった。去年の表紙もいい効果を出したのだと思います。
——最後にコンテストにチャレンジしたいと思う中高生にメッセージをお願いします。
中村さん:世の中には絵画コンクールはたくさんあって、今回の最終選考に残った子どもたちならば、ほかで受賞してもおかしくないぐらい、レベルが高かったですね。だから、みんなには、他のコンクールにも自発的にどんどん参加して、賞を取ってほしいです。僕も若い頃、こういうのにいろいろ出していましたよ。あと将来的にこのコンテストには、アナログの絵画だけでなく、デジタルで頑張ってる方たちも受け入れるようになることを僕は強く望んでいます。
しずちゃん:芸人という仕事でいろいろなことをやらせてもらい、初めて個展もさせてもらいました。芸人になる前の作品を押し入れから引っ張り出して展示したんです。それを見て、自分はこんなの描いていたんだ、その時にしか描けない自分が表れているな、と思いました。これから先、何があるかわからないけれど、自分の記録としても絵はいいな、みんなにも描き続けてもらいたいなと思います。
林さん:コンテストなんて、審査側の好みでしかないという部分はあるので、まずは描くことが好きでいてほしいですね。好きであり続けられることが才能なのだから、描き続けていれば絶対にいいことがあるよ、と僕は伝えたい。今回の結果がどうあれ、作品にまとめるだけで「あなた天才」、と言いたい。応募したことが勝ち組みたいなものなのです。
今年のキャンパスアートアワードも描きたい、伝えたい気持ちが、一枚一枚に込められていました。子どもたちのまっすぐな視点や集中する力、手間を厭わない頑張りは、見る者の心を揺さぶります。来年は記念すべき10回目を迎えます。これからも、キャンパスアートアワードはみなさんのチャレンジを応援していきます。