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紙に描く楽しさがほとばしる
キャンパスアートアワード2024 最終審査レポート

全国の中学生・高校生が「地元のイチオシ」を自由に描いて応募し、グランプリを受賞するとキャンパスノートの表紙を飾る、キャンパスアートアワード。絵を描きたい子どもたちの思いに共感し、自己表現する機会を提供したいと、コクヨと読売中高生新聞(発行所 読売東京本社)が共催し、文部科学省と観光庁の後援のもと開催される絵画コンテストです。10周年を迎えた今年は、過去最大の3,057点の作品が寄せられました。その最終審査が2024年10月29日、読売新聞東京本社(東京都千代田区大手町)にて行われました。

キャンパスアートアワード応募作品

選ばれた入選48作品

応募は公式ホームページよりエントリーします。今年の募集期間は2024年6月3日から9月11日でした。集まった作品を全国6地区に分け、予備選考が行われます。そこで中学生部門・高校生部門で各地域よりそれぞれ4点ずつ、合計48点の入選作品が選ばれました。
その入選作品から、最終審査にて、グランプリ(1点)、準グランプリである読売中高生新聞賞(1点)・コクヨ賞(1点)、地区優秀賞(6点)、審査員特別賞(3点)が選ばれました。

審査風景品

審査員は、7回目となる色鉛筆画家の林亮太さん、4回目となるイラストレーターで漫画家、音楽家でもある中村佑介さん、2回目となるお笑いコンビ南海キャンディーズのしずちゃんです。

今しか描けない、あなたにしか描けない

テーマは、「My Sweet Home Town〜地元のイチオシ」。地元の風景や風俗、風習、行事、食べ物などさまざま。絵の中にイチオシしたい思いを込めた作品が並びます。「今年はまた一段とパワーアップしましたね、どの作品も落としがたい!」「わー、きれいな絵ですね。こんな色使い、自分では思いつかない」「最初に目に飛び込んできたのはこの絵でしたが、じっくり見ていくと、こっちの絵にも引き込まれてしまう」「これが好き、描きたいという気持ちが伝わってきます。いいですね、見ている自分が励まされる」。審査員は悩みながら、受賞作品を選んでいきました。

審査風景品

結果発表

審査風景品

左からコクヨ賞、グランプリ、読売中高生新聞賞

グランプリは未だかつてない青の「信楽焼」

審査風景

グランプリに選出されたのは、滋賀県の高校1年生、森 和(もり なごみ)さんの「信楽焼」です。信楽焼のたぬきという「渋い」モチーフながら、会場で作品をじっくり見ていくと、青で描いたたぬきの魅力に引き込まれたと審査員は口を揃えます。今後に影響を与える作品との声も。「たぬきだったら、自分でも描けると思うでしょう。でも、やってみたら描けない。それはなぜか。いい絵って一体、何なんだろうと、この絵から考えると思うんです」。独自の色使いと構図が高く評価され、本年度のグランプリ受賞となりました。

準グランプリは「福井といえばの頂上決戦」と「居酒屋街」

審査風景

準グランプリの「読売中高生新聞賞」は、福井県の中学2年生、原 翼紗(はら つばさ)さんの「福井といえばの頂上決戦」です。「北陸新幹線が開通したけれど、福井がまだわからない人がいるかもしれない。だからインパクトが残る構図にしました」と作者の原さん。その思い通り、ダイナミックな絵の魅力に支持が集まり「このまま観光協会のパンフレットの表紙になってもいいよね」と高く評価されました。

審査風景

同じく準グランプリ「コクヨ賞」は、東京都の高校1年生、原田 楓華(はらだ ふうか)さんの「居酒屋街」でした。あまり知られていない飲み屋街で、パッと見ただけではどの街かわかりません。でもここを描きたかった気持ちが伝わってくる、この街らしさがあふれているとの声があがりました。

——グランプリ作品「信楽焼」について、選ばれた理由を教えてください。

審査風景品

中村さん:今回はどの作品も、絵が好きであること、若いということが、最大の武器になっていると改めて感じました。その中でグランプリ作は、その世代でないと出せない感覚やその人らしさが強く出ていた。信楽焼に蛍光色を合わせるのは、他の世代ならまず思い浮かばない上に、それを丁寧に仕上げる集中力も素晴らしかったです。

林さん:これよく見ると、逆光なのがわかります。空の雲のきらめきを残しながら、影になっている信楽焼を題材に捉えるのは、斬新で、きちんと計算している。色使いの巧みさを感じる作品です。デッサンもしっかりしている。テクニック、色彩選びのセンスも、こういう蛍光色を差し色にするところも含めて、非凡な才能を感じます。うらやましいと思いますね。

しずちゃん:たぬきの色がすごくきれいで、蛍光ピンクの色にハッとさせられました。ちょっと見えている空がきれいで、大気をより強調している。私は今年で2回目の審査ですが、何がグランプリに選ばれるかわからないコンテストです。去年とはまた違っていて、今年はちょっとおしゃれな感じというか。じっくり見ていくと、めちゃくちゃいい、と感じました。

——読売中高生新聞賞「福井といえばの頂上決戦」は、いかがでしょうか?

審査風景品

中村さん:いろいろなモチーフを詰め込んだ作品で、構図の取り方がうまく、周りの縁からはみ出していたり、かるたもはみ出ている一方、枠自体は立体的で段差が付いていたり、細やかさと絵のダイナミックさが共存するバランスがおもしろかったです。何よりカニもおいしそうですね。この絵を見て、福井に行きたくなる人も増えると思います。

林さん:紅ズワイガニが本当においしそう。デザインセンスもすごくあります。鯖江のメガネをあえて飛び出させたり、恐竜の口にカニのハサミが入っていたり、騙し絵的なところもある。恐竜の目の描き方もいい。中学生ぐらいだと、どうしても枠にきれいに収めるのが正しいとされがち。作者はこのダイナミックなセンスをどこで身に付けたのか、興味があります。見れば見るほど、末恐ろしいと感じさせる絵ですね。若い今なら何でも吸収できるから、いい絵や、いいデザインなど、何でも見てどんどん吸収していってほしいと思います。

しずちゃん:パッと見て、「これ」と思いました。インパクトがあって、迫力がある。パッと見たときに際立っていました。昔、福井県の芦原温泉に家族と旅行に行って、恐竜博物館に行き、カニをめちゃめちゃ食べた楽しい思い出を思い出しました。迫力ある絵を、また楽しみにしています。

——コクヨ賞「居酒屋街」はいかがでしょうか?

審査風景品

中村さん:ちょっとドキッとする絵ですよね。中高生のコンテストで、なぜこの景色を選んできたのか。東京の飲み屋街を描くときに、浅草とかメジャーな観光地がいくつもあるなか、そうではなくこの街を選んだ。近くに住んでいるのかもしれない。夜遅くまでのお店はいっぱいあるけれど、ここを描きたかったというのが伝わってきます。描写力も高い。昼と夜の街の顔の違いをテーマに選んでくるのも、ユニークな視点だと思いました。

林さん:高校生でよくここを描いたなと思いました。愛すべき自分の好きな場所を選び、この時間帯が一番活気があり、この街らしいとわかって、絵にしたのでしょう。僕も飲み屋街を何枚か描いていますが、難しいんですよ。ネオンサインみたいなものと提灯の光が錯綜する感じがあり、その光をどう扱うか、影をどう変えていくか、相当、観察しないと描けません。この絵は、過度に暗くしすぎていないのもいい。個人的には、僕の大好きな電柱を非常に細かく描いているのも好感をもちました。全体によく観察していて、街の喧騒が聞こえてきそう。音が聞こえてくる風景になっています。

しずちゃん:看板とかもすごい細かく、文字もきれいに描いているのに驚きました。提灯の光もきれいに描けています。すごいな。飲み屋街は、自分はめちゃくちゃ好きなんです。多分、お酒が好きな人は、みんなこの景色は好きやと思います。もう見てるだけでわくわくする。高校生が描いたのは不思議。どういう気持ちで描いたんやろう、気になります。

地区優秀賞6作品について、審査員からのコメントをご紹介します。

地区優秀賞
北海道・東北地区 北海道 高校2年生 相松 友愛(あいまつ ともあ)さん「にしん雲」

審査風景

中村さん:シュールな画面構成ととんでもなくきれいな色使い。めちゃくちゃ渋い。わが道を行く感じがします。これを横長で描くと海の広さは表現できるけれど、入道雲にもっとスポットを当てるならば縦長の方が、見上げる空がより広く高くなります。現在の真ん中ににしんがポツンといるのも、いいんですけれどね。縦長でそれをうまく表現できていたら、もしかしたらグランプリにもいけていたんじゃないかと思う作品でした。

林さん:シュルレアリスムを感じます。にしんが唐突に顔を出す、シュールさにやられました。すごく刺さりました。

しずちゃん:にしんが息継ぎをする体勢にはならないですよね。そういうのもおもしろいし、顔だけ出してるのもまたいい。

関東地区 東京都 中学3年生 山内 裕衣(やまうち ゆい)さん「匂いにつられて」

審査風景

中村さん:素朴さが素晴らしいです。机の面積を結構広めに取って、何をアップにするわけでもなく、引きの画面で見せているんですよね。亀3匹も、葛餅も、かき氷も全部一緒の面積なんですよ。淡々としていて、それが内容にも合っていて、素晴らしいと感じました。

林さん:葛餅にかかっている蜜がおいしそう。また亀がいい仕事をしています。テクニックで押すタイプの絵ではないけれど、構成で見せています。

しずちゃん:とにかくかわいい。実際には、亀は葛餅を食べないのに寄ってきている。1匹だけじゃなくて、ぞろぞろ周りから寄ってきているのが、想像できますね。

中部地区 岐阜県 中学2年生 上田 那優(うえだ なゆ)さん「夜が来る」

審査風景

中村さん:今はスマホの時代ですから、自分で撮った写真をベースに絵を描く人が多い。それもいいとは思うけれど、それをすると、どうしても”正しさ”の範疇から出られなくなっちゃう。想像を描き足せなくなってしまう。その中で、これは多分、あまり資料は見てないんですよ。自分が歩いている道はこんなだったよね、という記憶をもとに描いている。だからこそ、このダイナミックに空がきれいに描けるんです。これはイメージ上の空というか。でも気持ちがすごく伝わってくる。別に、正しく描けばいいという絵の前提を再確認させてもらいました。

林さん:中学2年生でこの宵闇の空の色をよく描けたと感心します。グラデーションをつくっていくのは大変なんです。電柱もこんな低いところにはないから、自分のイメージで描いているのでしょう。絵本の世界みたいな感じがします。異世界みたいですね。

しずちゃん:空がきれいで惹かれました。

近畿地区 和歌山県 中学3年生 東 花帆(ひがし かほ)さん「鮪と梅と激流」

審査風景

林さん:毎年、応募してくれています。どんどんテクニックが上がってきていて、今年は初めてカラーになったことに、衝撃を受けました。点描のテクニックがすごいというのが、目にした最初のきっかけでした。毎年見てきて、自分としてはまたすごくいい作品をつくってきたことがうれしかったですね。

しずちゃん:前回もすごく上手だったのを覚えています。中学生でも、すでにこの人の絵だとわかるものがあるというのは、すごいこと。これから色を取り入れたりして、どんどん変わって、進化していくのでしょう。すごいな。

中国・四国地区 愛媛県 中学2年生 浦川 真緒(うらかわ まお)さん「宮島に住む鹿」

審査風景

中村さん:これはもう、大好きな絵です。中学生で動物を描くときに、上から見下ろした構図をよくぞ選んだな、と。きっと鹿の頭とか耳のフワフワを描きたかったのでしょう。耳の毛が、めちゃくちゃかわいい。すごく優しい目線です。自分の住んでいる宮島の鹿をおすすめしたい、こんなにかわいいんですよ、と。その強い気持ちがあるなら、素直な絵を描いてもいいんだと、ハッとさせられました。

林さん:色彩がきれいですよね。見えている足もかわいい。宮島に鹿がいるのは知りませんでしたが、観に行ってみたくなる。そういう気持ちにさせるのがすごいです。

しずちゃん:優しい絵ですね、紅葉も優しいです。

九州地区 宮崎県 高校1年生 坂元 蒼介(さかもと そうすけ)さん「受け継がれてきた物」

審査風景

中村さん:髭が細かいんですよね、こんな絵、見たことあります? 箱はぼんやりしているのに、髭は絵の具で面相筆使って、細く一本一本描いています。よっぽど描きたかったんでしょう。シンプルだからこそ力強さの出た素晴らしい作品です。

林さん:これ色鉛筆だけで全て描こうとすると、髭は無理なんです。僕がもし描くなら、髭の部分は黄色か何か下に色を敷いてその上に色を重ねて、後でデザインナイフで削って髭の部分を出していきます。やりすぎると紙を切っちゃうので、ものすごく面倒くさい。まずはどうやって描いたか気になります。歯の部分に重なるところとか、神経を使うところもあるし、ものすごく繊細なテクニックを使っている人だと思いました。

しずちゃん:細かく、本当に畳の上まで細かく描いていて、繊細だけどめちゃくちゃ迫力がある。すごく上手ですね。

審査員特別賞

審査風景

〈中村佑介賞〉 兵庫県 中学3年生 山口 玲奈(やまぐち れな)さん「神戸とソフトクリーム」

審査風景

中村さん:神戸タワーを遠景でなく寄りで描くのは、なかなかできない。面倒くさいんですよ(笑)。それがまずすごい。それをコーンに見立ててソフトクリームを描いています。もともと神戸タータンチェックというものを描きたかったようで、背景にタータンチェックがあり、神戸の海の青とタワーの赤との組み合わせもこだわっている。これだけ要素が多いのに説明的にならずに、かわいく仕上がっているのも見事だと思いました。

〈林亮太賞〉 広島県 高校1年生 横山 智子(よこやま ともこ)さん「魅力渋滞、尾道!」

審査風景

林さん:今回、強い色彩の作品が多い中で、一番ふんわりした絵でしたね。色鉛筆の風合いをうまく生かしている。僕は去年尾道に行ったのですが、それを思い出させる、刺激される絵でした。技術的にはこれから伸びるところもあると感じますが、構図の取り方や光の表現の仕方など、見どころも十分で、今後が楽しみです。

〈しずちゃん賞〉 佐賀県 中学1年生 田中 亜実(たなか あみ)さん「唐津のほこり」

審査風景

しずちゃん:顔がガンっと前面にあって、迫力があるのが自分の好みというのもあって、印象に残りました。自分も魚の顔を真正面から描いたりしているんですが、その顔がちょっと間抜けだったりするほどかわいくて、描きたくなる。そういう構図なので、なんかいいなと思いました。お神輿を担いでいるお兄さんの肌は、肌色だけじゃなく、赤とか青とか使っている。全体的に粗く塗っているけれど、それが余計に迫力を増している感じがしました。すごく元気な絵ですね。

——今年の最終選考を終え、総評をお聞かせください。

審査風景品

中村さん:応募人数が多かったこともあるでしょう。今年から、みんなの志向が変化したというか、一段パワーアップしている感じがしました。描写力で見せるようなデッサンコンクールの側面は薄れて、生き生きとしていたり、楽しかった、きれいだった、そんなホームタウンの魅力が伝わってくる踏み込んだ作品が多かったです。説明を読まなくても、見ただけでわかる作品が多く、見ていて楽しかったです。

林さん:私は2018年から審査員をしていますが、2018年にグランプリを惜しくも取れず、翌年グランプリを受賞した学生が、現在は藝大で学んでいると聞きました。同じく、筑波大学で美術を学んでいる受賞者もいる。このコンテストが、何かのきっかけになると思うと、自分の役割の責任を感じますし、誰かのモチベーションになるとしたら、すごくうれしいことです。本当に責任が重いと感じます。
今回は、何を訴えたいか、すごくよくわかる作品が多かった。本当に選ぶのがしんどいのは毎回ですが、今回は特に強く感じました。優れた、いい絵をたくさん見られて幸せでした。

審査風景品

しずちゃん:自分は絵の見方みたいなものはわからないので、単純に好みだけで決めさせてもらっています。前回もすごいなと思ったけれど、今回もさらにまた上手な方がいっぱいで。皆さん、絵を描くのが好きな人たちが応募している。全国にこんなにたくさんいる。好きじゃないと描けない絵だろうな。自分も刺激を受けるというか、がんばらなあかん、って思いました。中高生は子どもや、みたいに思いがちがけど、自分ができない発想をいっぱい持っていて、すごいなと思って見ていました。

——最後にコンテストにチャレンジしたいと思う中高生にメッセージをお願いします。

林さん:デジタルじゃなくて、紙に描くということで、いろんな画材が紙に食い込んでいく感覚があります。それがアナログのよさ。それを楽しんでもらいたいですね。本来、紙に絵を描くことは楽しいこと。賞を取るということもあるかもしれないけれど、まず楽しんでほしいと思います。来年は11年目、新たな原点に返る感じで、またいろいろな絵が出てくるのが楽しみです。友達とLINEしたり、動画配信を見たり、子どもたちも時間をとられることは多いだろうに、そんな中でみんなは描いている。好きだから、これだけのものが出てくるんだろうと思います。

審査風景品

しずちゃん:決まりはないし、描きたいものを描いてほしい。もちろん評価されること、賞に選ばれることが目標で出されると思うけれど、何が選ばれるかわからないし、そこにあまりとらわれずに、「こうしな、あかんかな」みたいなものじゃなくて、伸び伸びと描いていただけたらいいな。中学生・高校生のときにしか描けない絵もあるから。大人になった時と違う絵があります。今の自分を映し出すものだから。そういう若いときにいっぱい描くのはいいことだと思います。

中村さん:みんな賞を取りたいことには変わりないと思うんですけれども、賞を取った作品は、その人の思いがよりはっきりしている絵なんですよね。ぼんやりといろんなものを描くのはいいけれど、それでもどれが今回一番見せたいのかを決めると、多分、結果は違ってくると思います。タッチとかは、全然、関係ないんです。

子どもたちの知性を育み、手書きの良さを伝えることを目的にスタートして、早や10年。応募作品は年々パワーアップし、子どもたちの描きたい、表現したいエネルギーに見ている私たちが励まされています。これからも若き創造性を支援する場として、キャンパスアートアワードはみなさんのチャレンジを応援し続けていきます。

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