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みんなの「描きたい」「伝えたい」気持ちが伝わってくる
キャンパス アート アワード2022 最終審査レポート

グランプリ受賞作がキャンパスノートの表紙になる。子どもたちの夢を後押しするキャンパスアートアワードは、コクヨと読売中高生新聞(発行所 読売東京本社)が共同開催する中学生・高校生を対象とした絵画のコンテストです。8回目を迎えた本年は、全国より2,039点もの作品が寄せられました。その最終審査が2022年10月26日、読売新聞東京本社(東京都千代田区大手町)にて行われました。
テーマは「My Sweet Home Town〜地元のイチオシ」。審査会場には二次選考を通過した入賞作36点が並べられました。いずれも「絵を描きたい」「私の地元を見てほしい」という思いがほとばしる、甲乙つけがたい作品です。一生懸命に描いている子どもたちの気持ちに応えたいと、審査員も全身全霊をかけて絵に向き合います。コンテスト結果だけでは見えてこない、選考の背景をお伝えします。

キャンパスアートアワード応募作品

どうやって選んでいるのでしょうか?

2022年6月1日から9月14日の間に寄せられたすべての応募作品は全国6地区に分けられ、予備選考が行われます。次にウェブを用いて二次審査を行い、最終審査に進む36点が選出されます。そこから、グランプリ(1点)、準グランプリとして読売中高生新聞賞(1点)とコクヨ賞(1点)、地区優秀賞(6点)、審査員特別賞(3点)が選ばれます。

審査風景

審査員は、色鉛筆画家でグラフィックデザイナーの林亮太さん、美術家で「夢眠書店」店主、キャラクタープロデュースなども手がける夢眠ねむさん、イラストレーターで漫画家、ミュージシャンでもある中村佑介さんです。林さんは5度目、夢眠さんは3度目、中村さんは2回目の参加となりましたが、一同 「リセットされて、新鮮な気持ちで参加しています」。

選ばれるかどうかは、結果にすぎない

審査員はウェブ上の二次審査ですでに作品は目にしていますが、実物を見るのはこの日が初めて。筆致や繊細な色づかい、細かな仕掛けなど、デジタル上では伝わりにくいものもあります。一枚一枚じっくり見て、作者が記した作品に込めた思いを読んで、時間をかけて気になる一枚を選んでいきます。「どれも上手で選べない。でも選んでいくうちに、絵が見えてきて、発見がありますね」と夢眠さん。

審査風景

中村さんは、学生時代に自らコンテストに応募した経験に思いを馳せながら、「僕らはひとり一人がどれくらい時間をかけたのか、どれくらい真剣なのか想像するけれど、実際のところはわかりません。子どもたちの人生で大きな一喜一憂させる決断を、はたして僕たちだけで決めていいのだろうか」と、審査にかかる重責を口にしました。

審査風景

林さんも、「選ばれるかどうかは、その時の結果にすぎない。タイミングでも変わるので、大事なことではありません。それよりも描く楽しさを忘れずにいてほしい」と語りました。

審査風景

結果発表
グランプリは不思議な魅力で目が離せないサル、サル、サル……。

審査風景

昨年は、コロナ禍で子どもたちの出歩く機会は制限され、結果として、身近な地域に心を寄せた作品が多く集まりました。今年は制限が緩やかになり観光地へ出向くこともできるようになったため、著名なスポットや名産が多く見受けられました。そのなかでグランプリに輝いたのは、より自由度をもって、街の新たな魅力を伝えようとした作品でした。長野県の中学2年生 小宮山満(こみやま みちる)さんの「いい湯ださなぁー」には、地獄谷野猿公苑で気持ち良さそうに温泉につかるサルが描かれています。味わい深いサルの表情が印象的です。

別のコンテストならば優勝していたかも!? 準グランプリ

審査風景

準グランプリの「読売中高生新聞賞」は、鳥取県の高校3年生 松島舞依さんの「夜の砂丘へ」。『因幡の白兎』を題材にキュートなウサギが登場、砂丘の広がりや星空の輝きなど、鳥取のよいところが詰まった完成度の高い作品です。

審査風景

同じく準グランプリ「コクヨ賞」は、愛知県の高校2年生 山元ゆめ花さんの「それゆけシャチムス!」。名古屋を代表する名物、天むすとシャチホコを合体させたアイデア以上に、デザイン性や細部の描写が目を引きました。両作品ともグランプリ作品に引けを取らない表現力や描写力が高く評価されました。

——グランプリ作品「いい湯ださなぁー」選ばれた理由を教えてください。

審査風景

夢眠さん:一目見たときから、気になって目が離せなくなった作品で、作者の別の作品も見てみたいですね。全部を描ききっているわけではないのに、サルそれぞれの個性が出ています。寒い中での暖かいお湯や苔むす岩も上手に表現できている。ジワジワくる、スルメのような味わい深さがあります。

中村さん:画力という範疇を超えた魅力的な表現になっています。過去の受賞作にない作品で、こういう表現でもいいんだと、今後の応募の可能性を広げてくれる一枚でもあると思う。

林さん:僕だったらサルの顔をものすごく描き込んでしまうことでしょう。顔のシワや手の感じ、口とか、このぐらいの表情でいいという描き方に、中学2年生とは思えぬ手練れを見ました。末恐ろしいほどです。斬新でした。

——読売中高生新聞賞「夜の砂丘へ」はいかがでしょうか?

審査風景

林さん:ウサギの毛並みや星の描き方など、リアリティの追求では王道をいく絵です。引き出しも豊富にあるようだけれど、これからずっと描き続けて、さらにいろいろなものを吸収していって、いい絵を描くようになると予感させます。将来的にも楽しみです。

夢眠さん:ウサギは自分の描き方でデフォルメされていて、やりたいことがすでに明確になっているように見えます。ストーリーもできあがってお話が聞こえてきそうな一枚です。要素が詰まっているけれど、ウサギだけ、夜空だけ、という表現も見てみたくなりました。

中村さん:ほかのコンクールならば、一等をとれる完成度です。グランプリ、準グランプリも、それぞれ異なる魅力で1位になれる作品でした。ウサギも砂漠も星空も質感がすばらしいですが、あえていうと、全てに注力したことが結果的に主役のインパクトを弱めてしまったかもしれません。

——コクヨ賞「それゆけシャチムス!」はいかがでしょうか?

審査風景

林さん:ポップアート的な感性やグラフィックデザイナーとしての資質を感じさせます。そのまま、天むすのパッケージデザインに採用したいぐらい。おにぎりは一粒一粒丁寧に描いていておいしそうだし、色の選び方や光の当たり方も秀逸です。

夢眠さん:名物同士の組み合わせなので、同じ発想をする人もいるかもしれないけれど、この絵が一番うまいでしょう。デザインも上手。お米が口でほどける感じが出ているし、海苔もベタ塗りではなく表情がついている。お米が透けている感じもいい。好きな絵です。

中村さん:ここまでうまく描けるのを見ると、こちらも欲が出てきちゃいますね。モチーフの大小だけでダイナミズムをつけようとしているけれど、角度も変えてみたり、シャチをもう少し金属っぽくすればもっと効果的になって、より人の心を掴む作品にできる方だなと思いました。

そのほか、入選作品の審査員からのコメントをご紹介します。

地区賞
北海道・東北地区 秋田県 高校2年生 齋藤ゆらさん「ギュギュっと大館!」

審査風景

中村さん:脇役のモチーフにも一切、手を抜くことなく描いている。手描きの活字もまるで絵の具ではなくパソコンで入力したのかのように丁寧に描かれたことにより、他の手書き文字の温かみがより演出されていて、心を打たれました。犬もちゃんと柴ではなく秋田犬の顔つきになっていて抱きしめたいほど。大きさや描き方などどこかひとつにもう少しだけインパクトを持たせれば、より目にとまる作品になりますので次作でぜひ試してみてください。

関東地区 東京都 中学2年生 勝俣祐香さん「癒やしの夕焼け」

審査風景

夢眠さん:「生憎、住んでいる地域に名所などは無い」というコメントに心を動かされました。観光地じゃなくて何もないけれど、とっておきの景色を見せたいと選んでくれた事実にグッときました。最高の感動が身近にあったというのが伝わってきました。

中部地区 愛知県 高校2年生 斎藤小唄さん「豊川の夢狭間」

審査風景

夢眠さん:豊川稲荷の夜詣が幻想的で、観に行きたいと思わせる絵です。ライトアップで昼ではありえない色を使いながらよくまとまっていて、雨上がりのようなきらめきや季節感も出ています。よく観察したんだろうなと感じました。

近畿地区 京都府 高校2年生 玉段弥咲さん「風光明媚」

審査風景

林さん:放射状に伸びる竹のしなやかさや緑の美しさが印象的です。手前に筍がドンとあって、補色の赤も効いています。細部にもテクニックを感じさせ、目を引きました。光の感じもよく出ていて、とても計算されている作品だと思います。

中国・四国地区 広島県 中学2年生 下薗理子さん「神楽」

審査風景

中村さん:今回は色々な地方の鬼を描いた作品が多かった。そのなかでもこれは中学生がかっこいいと思う絵に仕上げられていました。般若の面は怖い印象になりがちなところ、手前に窓をつけてデザイン処理をするなどして印象を和らげているのにきちんと神々しいし、グランプリでもいいくらい。特色ではなく通常色の差だけで金色を表現しているのも秀逸。

九州地区 熊本県 中学3年生 中本千波耶さん「きじ馬の自由行動」

審査風景

林さん:切り絵のように表現しているのがユニークで、スイカやトマトが潜んでいて、探し絵としての要素もあって楽しい。色の使い方もいいですね。ミントグリーンをもってくるあたり、熟練のデザイナーのよう。「自由行動」というタイトルもいいですね。

審査員特別賞
〈林亮太賞〉和歌山県 中学1年生 東花帆さん「鯨」

審査風景

林さん:あえてモノクロームの点描画にしたのだと思いますが、去年まで小学生だった人の絵とは到底思えない。驚きました。傾向と対策などは考えずに、描きたいものを描いたのでしょう。鯨をこういうデザイン性で表現したのにも驚かされました。

〈夢眠ねむ賞〉香川県 中学2年生 慶田陽彦さん「源平合戦」

審査風景

夢眠さん:作者は「この絵を見た人が『欲しい!!』と思えるような作品にしたい」と書いていたけれど、その狙い通り、欲しいと思いました。背景の色も時代がかっています。デフォルメも効いていて、作家として面白いし、見て嬉しくなる絵です。さまざまな武将を描いた絵巻画集をぜひ出してほしい。

〈中村佑介賞〉京都府 高校2年生 榎本莉子さん「ギュッと京菓子」

審査風景

中村さん:おもちの上の白い粉……、あれを描いていている着眼点がすごい。和と洋、今と昔が混在していて、それが最近の京都の魅力を伝えています。作者はおもちが大好きなんでしょうね。これが好きなんだという思いが強く出ています。反面、アクセントとして描いた飴の質感がないことが気になった。若い方のコンテストに見られる傾向ですが、好みによる精度のバラツキがなくなれば、さらによくなると思います。

——コンテストを通じての感想をお聞かせください。

審査風景

林さん:36点の実物を見て思いましたが、みなさん上手だというのが第一印象です。通常は中学生らしい奔放な描き方が見られるものだけど、今回は、中学生か高校生か、レベル差がなくて判別つかなかった。デジタルに近い世代が、あえてアナログで描いているというのは、それだけですでに選ばれし人たちだといえるのかもしれません。

夢眠さん:私の地元でもお祭りが3年ぶりに解禁されましたが、その影響で、今回は名所らしい名所を描く絵が多かったように思います。また、中高生の境目がなくなってきています。だからこそ、個性的な絵に目がいきました。個人的にこの人の絵をもっと見たい、画風が気になる、という視点で選ばせてもらいました。

審査風景

中村さん:デジタル時代の現代においてそれでも紙を使って絵の具を選ぶ時点で、とりわけ色が好きなのですよね。だからみんな色の選び方が上手でした。また同じモチーフであっても、それを見てどう感じたか、その伝えたい思いがみんな違っていて素晴らしかったです。将来的には、アナログのみならず、スマホやPCの絵なども見てみたくなりました。相互に刺激し合って、さらに面白いコンテストになっていくと思います。

——最後に次回コンテストにチャレンジしたいと思う中高生へ、メッセージをお願いします。

中村さん:絵を完成させて提出するというのは大変なことで、僕も久しぶりに絵の具の作品を描いたら、3日ほど肩が痛くて寝込んでしまった。それだけ集中するし、エネルギーを使う。だからみんな、すごくがんばっています。絵はみんなやめちゃうのにここまで描き続けた時点ですでにえらい、と伝えたい。だからもっと自信をもって、みなさんのもっと個人的なモチーフや景色、それをどう好きなのか、どう自慢したいのかをこれからも楽しみにしています。

審査風景

夢眠さん:とにかく描きたいものを描いてほしい。私も先生のいうことをかなり無視していました。もちろん、画面の処理はきれいにしたほうがいいとか、耳を傾けるべきアドバイスもあるでしょう。でもまずは、自分のいいたいことに集中して、ギュッと絞って、来年もチャレンジしてもらえたらうれしい。見せたいものを見せてください。

林さん:僕はデジタルで描き始めたのは30歳を過ぎてからで、今の色鉛筆で描くスタイルを確立したのは50歳を過ぎてからです。できなくてへこみながら、批判されながら、続けてきました。だからこそ、好きで描いているならば、何があっても絵を嫌いにならないでほしいと言いたい。絵を描くというのは贅沢な時間を使うことだし、きっと自分にとって豊かな時間になるはずです。

「子どもたちにとって、このコンテストの一枚は、生涯忘れえぬ一枚になるかもしれない」。そんな思いで、このコンテストは運営されています。審査員は、プロとしての厳しい目と多くの経験に裏付けられた判断のなかに、若き才能を見守りたいというあたたかな心で一枚一枚に対応していました。そのメッセージを感じていただければ幸いです。キャンパスアートアワードは、これからもみなさんのチャレンジを応援していきます。

審査風景

受賞作品発表

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