2021.12.06
ワークツールでアップサイクルをもっと身近に~KOKUYO ME第6弾~(後編)
SDGsをはじめ、サステナブルの考えが盛り上がりを見せる昨今。中でももっとも身近なサステナブル活動であるリサイクルに、「アップサイクル」という新たな波が到来。「Life Accessories」をコンセプトにする文具ブランド「KOKUYO ME」に登場した限定アイテムは、着古した衣類やはぎれなどの廃棄繊維を原料とする素材で作られています。後編では素材の裏側にある思いや社会問題に迫ります。(※撮影時のみマスクを外しています)
KOKUYO MEの限定アイテムで使われたアップサイクル素材を開発したのは、京都のベンチャー企業 株式会社カラーループ。KOKUYO MEの新アイテムの企画・デザイン担当に商品に託した思いと開発秘話を聞いた前編に続く今回は、カラーループの創業者で代表取締役の内丸もと子さんに話を聞くことにしました。どうして廃棄繊維をアップサイクルしようと思ったのか。開発された素材の裏側には、衣類をはじめとする消費社会の問題点が隠されていました。
話を聞いた人
株式会社カラーループ |
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東谷商店 |
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コクヨ株式会社 |
「ごみを出す仕事」という戸惑いがはじまり
取材日当日、内丸さんは大阪府南部の泉佐野市に待ち合わせ場所を指定しました。市内の樫井地区は、古くから故繊維業が盛んな地域。そこに工場を構える東谷商店に、今回のKOKUYO MEシリーズでカギとなる材料が集まるというのです。
内丸さん「故繊維とは、不要になった衣類や布製品のこと。東谷商店では家庭や事業所から出る古着や古布など、廃品回収などに出された故繊維を集め、リユースやリサイクルできるものを選別しています」
工場の一画を見ると、集められた故繊維が山のように積み上がっています。その高さは5メートルを軽く超えそうです。
東谷さん「集められた故繊維のうち、リユースできるものは古着店に引き取られるほか、海外にも輸出されます。ただ昨年は新型コロナの影響で輸出がストップ。故繊維の行き場がなくなり、一時期は工場からはみ出るんじゃないかというくらいでした」
けれどもリユースできる衣類はほんの一部。残りは繊維を細かくしてリサイクルに回し、それも難しいものは焼却処分します。そして驚くべきは、集まった衣類の6割は焼却処分されるそうです。この山の大半が、燃やされてしまうとは......!
内丸さん「それでも東谷さんのところは、割合が少ないほう。一般には故繊維全体の8割近くが焼却処分されると言われています。それ以前に、衣類は家庭ごみに出してしまうという生活者も多いのではないでしょうか」
かつては、インテリアやファッション分野のデザイナーとして活躍していた内丸さん。特にテキスタイル(織物や繊維の総称)が持つ表現力の豊かさに魅了され、本場であるイギリスにも留学しました。
帰国後、仕事でリサイクルのプロジェクトを任されたときのことです。内丸さんはペットボトルや空き缶、紙などに比べ、故繊維がほとんどリサイクルされていない現実を知り、愕然とします。
内丸さん「大好きなテキスタイルが、資源を消費している一方だなんて。私はごみを生む仕事をしているのかもしれないと思うと、いたたまれない気分になりました」
でも、これで終わらないのが内丸さんです。ただただものを作り続けていくわけにはいかないと、大学院への進学を決意。繊維リサイクル研究の権威、京都工芸繊維大学 木村照夫教授(現・名誉教授)の研究室の門を叩きます。
色を利用して魅力的な素材に!
通常、故繊維のリサイクルは、工場の雑巾に使われるウエスや、反毛(工業用フェルト)など産業用資材として利用されることがほとんど。色が考慮されることはありませんでした。
内丸さん「一般消費者向けに開発されたものも、色を雑多に混ぜているためワクワクできるようなものはありませんでした。リサイクルを難しくしている要因のひとつは、複数の繊維を混ぜた衣類が増えたことです。たとえば、デニムにしてもストレッチデニムが多くなり、それらはコットンにポリウレタンを織り込んで、伸縮性を高めています」
内丸さん「理由のふたつめは、繊維加工技術が向上し、触っただけではどんな繊維が使われているか分かりにくくなったことです。膨大な衣類を仕分けするのに、表示タグを確認しながらでは手間がかかるうえ、そもそもタグのない衣類も増えています。そして3つめの理由は、他の廃棄物に比べて故繊維リサイクルの法整備が進んでいないことです」
東谷さん「昔は綿や麻など天然素材100%のものが多かったこともあり、リサイクルしやすかったんですよね」
昔に比べると、再利用するのが難しくなっているという事実。故繊維事業の厳しさが伝わってきます。
従来のリサイクル素材や製品を見て、魅力的な素材にするには色を利用するしかないと考えた内丸さんは、故繊維自体を色材として使うことを思いつきます。従来の故繊維のリサイクル品が、くすんだ色をしているのはなぜなのか。それは集めた故繊維を丸ごと加工するからでした。複数の色の絵の具を混ぜると灰色になるのと同じ現象が、故繊維にも起こっていたのです。
元の衣類は、それぞれが美しい色彩を放っていたはず。それならば、故繊維を色で分けて再利用すれば、衣類の色を生かした使い方ができるのではと、内丸さんは考えたのです。
そこで内丸さんは、東谷さんら故繊維回収の事業者、素材開発の研究者・技術者を巻き込んで、「カラーリサイクルシステム」という独自の技術を編み出します。
内丸さん「カラーリサイクルシステムは、さまざまな可能性があります。ベースとなる素材に加えて故繊維の含有量によっても性質が変わります。樹脂と混ぜたり、パルプと合わせてみたり。糸やフェルト状のものから今回のKOKUYO MEシリーズのような皮革状のもの、まで、いろんな表情を持ち合わせています」
KOKUYO ME新アイテムに使われた素材を作るための最初の工程は衣料品の色による分別
アップサイクルならではの課題を乗り越え商品化へ
一方で、色が安定しないという特性も。なぜなら色材の原料となる故繊維の内容が、毎回変わるからです。仮にブルーデニムだけに限って集めても、その色味や素材は一つひとつ違います。そのため、あるロットで表現した色を、別のロットで完全再現することはほぼ不可能。まさに「一期一会の色の出会い」であり、含まれる繊維の種類も一律にはなりません。
この性質に頭を抱えたのは商品開発を担当する渡利幸治です。彼の仕事は製造時の仕様を決め、企画を具体化し、安定的なものづくりを実現すること。ロットによって色味や成分が異なる原料など、これまで使ったことはありませんでした。
渡利「仮に試作で成分検査を通過しても、製造段階ではまた含まれる故繊維が変わるので、結果も違ってきます。安全・安心できる品質と、アップサイクル素材ならではのプロダクトの個性をどうしたら両立させられるか。紛れもなく新しい挑戦でした」
動き出したチャレンジを何としても形にしたいという思いで、社内で議論を繰り返し、検査項目をゼロから作り、全数検査を行うことに。
こうしてようやく製造にこぎつけたと思ったら、次なる壁は素材の繊細さ。商品に使われている生地は傷がつくと表面が白くなる性質があり、ミシン針をぎりぎりまで細くするなど、跡ができるだけ目立たないように工夫しました。
さらには、個別包装をしないことになったため(詳細は前編参照)、配送テストをしながら商品が傷まない梱包を検討しました。
渡利は「数量限定だから商品化できた要素も多いですが、今までのコクヨにはない新しい価値を届けられるのでは」と自信を覗かせます。「私も今回つくったポーチやノートカバーを実際に使っていて、使い心地も含めて手応えを感じています。アップサイクル素材を使っているとは、一見ではわからない風合いが気に入っています。『実は廃棄衣料からできているんです』って、思わず周りに伝えたくなる商品になりました」
消費への意識改革とさらなる魅力づくりを
内丸さんたちがつくりあげた「カラーリサイクルシステム」に、今、いろいろな企業が注目しています。アパレルや化繊メーカーとのコラボレーションや、鉄道会社から制服のリニューアルに伴い古い制服を使って何かつくれないか、といった相談も受けたそうです。
内丸さん「まずは生活者一人ひとりの意識も、変わっていく必要があると思います。大量生産・大量消費の限界を理解し、身のまわりのものがどのような流れを経て自分の手元にやってくるのかを考えながら購買活動をすること。コクヨさんのように、誰にとっても身近で、かつ、衣料品とは事業領域の異なる企業に取り上げてもらえることはとても意義があります」
廃棄物を減らし、循環型社会の実現につながるアップサイクル。今後よりいっそうの広まりが期待されますが、アップサイクルには人の手と工数がかかる分、価格も上がります。
内丸さん「アップサイクル品自体の付加価値を高めていくことも大切です。従来品に価格面ではどうしても及ばないのですから、『欲しい!』と思えるような価格以上の魅力が問われるのだと思います」
渡利「東谷さんの工場を訪れてみて、私たちの取り組みの価値を改めて考えるきっかけとなりました。これからも自分たちにできることを模索しながら、新しい価値の創出にチャレンジしていきたいです」
日本でも徐々に、「社会や環境に配慮した、エシカルな消費がかっこいい」という考えが根づき始めているところ。その気運を後押しするのは、日本に連綿と築かれてきた"ものづくりの力"なのかもしれません。
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