2022.11.22
ぐるっと回って考えた、PERPANEPの新たな挑戦②~ドイツ装ノート開発ストーリー~
こんにちは。紙とペンの相性に着目したシリーズ「PERPANEP(ペルパネプ)」の企画・マーケティングを担当している粕谷高太郎です(写真の左側が私です)。発売以来、「書き心地」というPERPANEPが提供する価値をどうすればお客様に届けることができるのか、機会あるごとに商品を持って出かけ、お客様に触って試していただき、会話をし続けてきました。シリーズ記事の第2回となる今回は、新しい挑戦として開発したPERPANEPのハイレンジモデル「ドイツ装ノート<PERPANEP>」の製品のこだわりや開発者の苦労など、誕生までのストーリーをご紹介します。
ドイツ装ノート<PERPANEP>の特長
今回開発したドイツ装ノート<PERPANEP>は、「紙質」と「装丁」に大きな特長を持っています。これまでのPERPANEPシリーズと同様、筆記感の大きく異なる3種類の紙質(「ツルツル」「さらさら」「ザラザラ」)をラインナップしており、自分にとって気持ちの良い書き心地を選ぶことができます。
また、「ドイツ装」という製本方法を採用し、360°折り返しても、180°フラットに広げても書きやすいため、様々なシーンの「書く」に寄り添う仕様に仕上げています。スマートな上品さと高級感を兼ね備えたデザインもこだわりの一つです。今回は、紙質と装丁のそれぞれの開発担当に、開発のこだわりや苦労したポイントなどを聞きました。
PERPANEPの紙質へのこだわり
■話を聞いた人
コクヨ株式会社 ステーショナリー事業本部 ノート本部 ノート開発部 椿裕尊
こだわりポイント①:筆記感の大きく異なる3つの紙質
3つの紙の筆記感の違いは、主に「表面の平滑度」「圧縮度合い」の違いから生まれます。
まず、表面の平滑度に注目してみましょう。
下の画像は紙の表面の画像で、3つの紙、それぞれが異なった表面をしていることが見てわかります。ツルツルは圧縮によりパルプ表面が平たくなっているのに対し、ザラザラは粗くて繊維の太いパルプが見え、さらさらは細かいパルプが比較的均一に並んでいます。このような表面のパルプの違いによって平滑度が変わり、筆記感や手触りの違いを生んでいます。
(画像)紙の表面拡大図 左から「ツルツル」「さらさら」「ザラザラ」
次に、紙の圧縮度合いに注目してみましょう。
下の紙の断面写真をご覧ください。断面写真の黄色の部分は、紙の中に含まれる空間を表しています。ツルツルは、強いプレス加工により繊維の密度が高く紙に空間をほとんど含まないため、ペン先が沈みこむことなく紙の表面を流れるように書ける仕様となっています。一方でザラザラは、紙の表面(赤い部分)がかなり凸凹しているので、ペンの動きや筆記する音が強く感じられます。また一見すると空間が多くペンが沈み込みやすそう見えますが、太いパルプが変形しにくく沈みこみを防ぐことができるため、軽いタッチで書けるという特長をもっています。
(画像)紙の断面図 左から「ツルツル」「さらさら」「ザラザラ」
椿:「3種類の紙はいずれも思い入れがありますが、その中でもザラザラの紙の開発に一番こだわりました。紙質をザラザラにしていけば表面の凹凸が大きくなるため、筆記が重く書きづらくなってしまうのが一般的です。しかしこの商品では、ザラザラの紙でありながら、ペン先が沈み込みすぎずに書き心地が軽い、書きやすいという絶妙なバランスの調整が実現できました」
こだわりポイント②:インクの濃淡の出やすさ
2つ目のこだわりは、インクの濃淡の出やすさです。気持ちの良い書き心地で書くだけでなく、「書いた文字の味わいを感じてほしい」という想いから、インクの濃淡が出やすいような調整にこだわったといいます。
インクの濃淡の出やすさを決める要素として、インクの紙へのしみこみやすさが重要な指標となります。インクは、液体が紙に吸収される際に、色の成分が紙の表面や内部に留まることで発色します。紙に配合するインクをはじく薬剤の種類と量を調整することで、インクのにじみや乾きやすさ(=しみこみやすさ)を調整しています。しかし、一口に薬剤を入れるといっても簡単な話ではありません。薬剤を入れることで濃淡の調整ができるようになる一方で、インクが乾きにくくなったり、にじみの原因となったり、筆記感が重くなって本来実現したかった軽い書き心地が失われたりといった課題も生まれてきます。インクの濃淡の出やすさとにじみづらさ、軽い書き味。苦労しながらも粘り強くバランスを調整し、完成させたのが今の3種の紙質です。
こうした苦労の末に生まれたPERPANEPの紙質は、実際に他社のノートと比較してもインクの濃淡が出やすいことが分かっています。下のグラフは、PERPANEPのうち特長的な筆記感をもつツルツル・ザラザラの紙と、それぞれと近い他社のノートの紙の「濃淡の出やすさ」を比較したグラフです。グラフの数値は、同じインクで同じ文字を筆記し、インクの薄い箇所と濃い箇所の差を表しています。この数値が大きい方が、濃淡が出ていると評価しています。
このグラフを見ると、ツルツルとザラザラは、他社のノートと比較しても、濃淡が出やすいことが見て取れるかと思います。実際に書いた文字でもその差は明確です(ちなみに、「東」という文字で比較しているのは、止め・はらい・線の重なりの多さで濃淡がより分かりやすいからだそうです)。
(画像)左から ツルツル, ザラザラ, 他社ノート
開発に込めた想い
椿:「紙質が3種類あることは、PERPANEPの大きな特長だと思っています。ご自身のお気に入りの筆記具に合う紙質で書いていただき、書き心地やインクの発色の良さ、濃淡による文字の味わいなどを感じながら、あえてアナログで書くということを楽しんでいただきたいです」
装丁のこだわり
■話を聞いた人
コクヨ株式会社 ステーショナリー事業本部 ノート本部 ノート開発部 吉田慎平
こだわりポイント①:コクヨとして初めて挑戦した製本「ドイツ装」
「ドイツ装」という言葉を初めて聞いたという方も多いのではないでしょうか。ドイツ装とは、中のノートの部分を、表紙・裏表紙で挟み込んで糊付けする製本です。
一般的なノートは、背まで巻き込んで製本しているため、背の部分が割れたり見開き性が悪いことがあるのですが、このノートは本体の背を柔らかい布クロスで包み、表紙・裏表紙を背からずらして貼り合わせているため、ハードカバーでありながら360°折り返して使用することが可能です。ゆったりとした自宅の机でも、狭い出先のスペースでも、立って書きたいシーンにも、様々な「書く」に寄り添うことができるよう考えています。
今回採用しているドイツ装は、特に製本の際の糊付けに高度な技術を要し、職人が1冊1冊、表紙と中の冊子を手で貼り合わせています。コクヨとしてもこの製本は初めての挑戦のため、吉田は折り返しのしやすさを追求するため、表紙と布クロスの間隔を1mm単位で調整し、試行錯誤を繰り返したといいます。
こだわりのポイント②:高級感のあるデザイン
今回のドイツ装ノートは、ハイレンジモデルという位置づけでもあるため、高級感を感じられる装丁に仕上げています。
吉田は、この高級感の演出に苦労したといいます。表紙の素材にレザー感のあるものを選べば高級感自体は出せますが、少し重厚すぎる印象になってしまいます。高級感とスマートで控えめな上品さを両立する素材で、なおかつコクヨの品質基準をクリアできるものが少なかったため、部材選びが大変だったとのことです。ぬめっとした触り心地のものや、ざらついた質感の素材を選んでは手作りで試作し、検討を進めてきました。
(画像)試作した表紙(左)と箔押しの検証(右)
こういったデザインのこだわりは表紙だけでなく、布クロスや箔押し、見返し部分にあたる部分の紙の質感にまで及んでいます。布クロスは光にあたると少しキラッとする素材を選んでおり、さりげない特別感を演出しています。箔押しの黒も、存在感がありつつ派手すぎないよう、様々なパターンを試作して今の黒色に決まりました。
開発時を振り返って
開発時のことを振り返り、吉田はこう語ります。
吉田:「正直、開発にあたって壁にぶつかることがたくさんありました。しかし、試作を繰り返していく中で、徐々に一つ一つの部材の方向性や商品のイメージが固まっていき、だんだんとその過程が楽しくなっていきました。また、試作品で行うヒアリングで、『これすごくいい』『このノート格好いいね』という声をいただき、そういった言葉に支えられ、徐々に自信になっていきました。」
吉田:「書きやすさ・使いやすさ・デザインを追求しました。実際に書いてみて、こういった価値を感じていただきたい。見た目もよいので、ファッションの一部として持ってもらえるのもうれしいですね。」
たくさんのこだわりが詰まった、ドイツ装ノート<PERPANEP>。ぜひ、手に取って感じていただけると嬉しいです。
最終回のヨコク
ここまで読んでくださりありがとうございました。開発のこだわりを感じとっていただけたら嬉しく思います。次回はシリーズ記事最終回として、実際にこのドイツ装ノート<PERPANEP>を事前に使用いただいていた方に、ノートの使い方や感じていること、良い点、悪い点をインタビューしてお伝えしていきます。次回もお楽しみに!
※ドイツ装ノートのクラウドファンディングは2022年12月13日を以て終了しました。たくさんの応援をいただきありがとうございました。
■特集シリーズ「ぐるっと回って考えた、PERPANEPの新たな挑戦」