公式アカウント
Twitter Instagram

コクヨと象印、働き方が変化する時代の持ち運びを考える商品開発秘話、タンブラー、ビジネスリュック、THIRD FIELD

2021.09.14

働き方が変化する時代の持ち運びを考える~THIRD FIELDの挑戦~

家庭用品大手の象印マホービンと、文具メーカーのコクヨの企画開発担当者によるスペシャル座談会「商品開発に見るLifeとWorkの交差点」。後編では象印のメンバーが、コクヨの新ブランド・THIRD FIELDの「スタンドバックパック」について、商品化までの道のりや開発秘話などを探ります。※撮影時のみマスクを外しています。

#ABW#持ち運び#開発秘話

▼「商品開発に見るLifeとWorkの交差点(前編)」はこちらから
持ち運びできる保温・保冷力に優れたタンブラー、その裏側の真実

登場人物

▼象印マホービン株式会社

210914_01_morishima.png

森嶋孝祐さん
第三事業部サブマネージャー
水筒やタンブラーの商品企画を手がける。商品企画を通じて、社内の常識や慣例に一石を投じる改革者。丁寧なマーケティングと大胆な発想が持ち味。

210914_02_morimoto.png

森本慎也さん
第三事業部サブマネージャー
水筒やタンブラーの設計・開発を担当。安全性や工場での生産性を考慮しながら、企画やデザインをベースに商品の仕様を決めていく。アイデアの具現化に欠かせない存在。

▼コクヨ株式会社

210914_03_ban.png

伴和典
ステーショナリー事業本部 戦略PDCA本部 
商品戦略部 シニアアソシエイト

社会の役に立つ商品企画を日々追求するマーケター。ABW時代の到来にいち早く目をつけ、スタンドバックパックの開発につなげた。落ち着いた物腰で、社内でも癒しの存在。

210914_04_kinoshita.png

木下郁(かおる)
ステーショナリー事業本部 文具本部 文具開発部

バッグ・イン・バッグやペンケースなど、ファブリック製品を多く手掛ける若手のホープ。スタンドバックパックでは設計を担当した。

文具メーカーの視点でビジネスリュックをつくったら

「カバン」じゃない!?「背負えるペンケース」!?

森嶋:このバックパック、1カ月くらい使わせていただいて思ったんですけど、正直言ってカバンじゃないですよね!?

木下:あ......、あの、どうしてそのように思われたのでしょう?

森嶋:パッと見た印象は、よくわからなかったんです。仮にお店でビジネスリュックのコーナーに並べられていたとしても、他のものと差別化できず、埋没しちゃうんじゃないかって。

:............!(痛いところを突かれた!)

森嶋:でも実際に使ってみたらパソコンがスルスルっと入って、使ったペンをペン立てにしまったときの感覚に似ていたんです。だからこれは、「背負えるペンケース」なんだと理解しました。ステーショナリーの視点でつくられているから、ちょっとカバンとは違うなって。

コクヨ,Thirdfield,スタンドバックパック,ビジネスリュック コクヨTHIRD FIELD スタンドバックパック

木下:(安堵の表情を見せながら)一般的なカバンメーカーやアウトドアブランドがつくるのとは、発想の部分で違ったかもしれません。特に私たちが意識したのは、置いたときの状態。パソコンや机の横でどうなっていると、使いやすいのかって。おそらくこの視点が文具メーカーならではなんですよね。ふつうはカバンというと、移動を第一に考えると思うから。

森本:ほとんどのビジネスリュックは、置いた途端にクタっとしちゃいますもんね。でもこのバックパックはスタンド機能があるし、上のジップがパカッと広がるから、スマホも書類もすぐに探せて、「ほんまに取り出しやすいなあ!」って使いながら感激しました。

森嶋THIRD FIELDシリーズって、他のアイテムも自立するしかけになっているんですよね。モバイルツール用のポーチとか、書類ケースとか。これらも含めた中に、バックパックのポジションがある。その広がりもユニークですね。多分バッグ単独で企画していたら、ジップにアクセントがほしいとか、目を引くテキスタイルがいいとか、よりファッション要素の方を優先して、全く違うものになっていたかもしれない。

象印マホービン株式会社,森嶋孝祐さん,森本慎也さんのサムネイル画像

ジッパーの工夫に気づき、改めて手を伸ばす森本さん

働く場所を自由に決められる時代に求められるもの

森本:カバンはコクヨさんにとって新領域ですよね。何が開発の起点になったのですか?

:ひとつは、ワークスタイルの多様化ですね。最近はオフィスだけではなく、在宅やシェアオフィスを組み合わせて働かれる方が増えています。仕事の内容に合わせて、働く場所や時間を自由に選択される働き方ですね。オフィスもフリーアドレスを取り入れるところが増えています。

森嶋:席が個人に割り当てられていた時代から、その都度自分で選べるようになってきたということですね。

木下:かつては自席にペン立てやファイルボックスを置いたり、引き出しに書類や資料をしまったりといったのが当たり前でした。それがデジタルツールやロッカーに置き換わり、仕事に必要なものを取り出して持ち運ぶというスタイルが定着しつつあります。

:そうした中、私たちのチームでかつて開発した「mo・baco(モ・バコ)」というオフィス専用バッグがヒットしました。中は仕切りやポケットで区切られていて、電源ケーブルやペンなどをしまってもすぐに取り出せるのが人気の理由でした。一方で事務用品や文具の市場規模は縮小傾向にあり、新たな市場領域の開拓が課題です。ワークスペースがオフィスの外に広がりを見せているなら、持ち出せるmobacoみたいなものをつくれたら面白いかもというのがきっかけですね。

コクヨ モバコ mobaco 開発秘話

森本:在宅勤務などテレワークを併用する会社が、新型コロナで一気に増えましたしね。

:そうなんです。開発がスタートしたのは2019年なので、世の中がこんなに変わるとは予想もしていなかったんですが。

森嶋:「仕事のツールをオフィスの外へ」って、私たちのタンブラー(前編参照)のコンセプトと共通しますね。家のマグカップやグラスで飲むときと同じように、外でも心地よく飲み物の味や香りを楽しんでもらえたらという思いから生まれたから。

ABWワーカーのリアルなモヤモヤを解消

森本:バックパックには、モバイルワーカーの意見やアイデアも反映されているんですよね? 弊社の岩本(雄平さん/象印マホービン 新事業開発室 マネージャー)が、プロジェクトに参加したと聞いています。

:「WeWorkなんばスカイオ」にご協力いただき、「KOKUYO リュックを創ろうプロジェクト」を発足したんです。メンバーを募ったら、岩本さんが真っ先に反応してくれて。本当にいろんな観点から、ご意見をくださいました(詳しくはこちら)。

森本:同じ部署で仕事したことがありますが、岩本はすごくアイデアマンなんです。張りきっていたんじゃないかと思います(笑)。

木下:プロジェクトには年代や性別、所属や職種も異なる10人のメンバーが集まりました。ブレインストーミングに始まって、市販のビジネスリュックを試したり、試作品を使ってもらったりして、いろんな意見をいただきながら形にしていきました。

森本:どのようなリクエストが上がったのですか?

木下:ひとつはサイズ感ですね。モバイルワーカーのみなさんは、移動を前提としているから持ち物を厳選しているんです。そのため市販のビジネスリュックは大き過ぎるから、コンパクトにしたいと。

コクヨ株式会社 商品企画 伴和典

コロナ前から働く場所は今後オフィスだけではなくなると考えていた伴

無駄のないサイズとスムーズなモノの出し入れを

森嶋:確かにムダがあるのはスマートじゃない。

木下:それから、持ち物がリュックの底に沈んでしまう問題ですね。なかなか出てこなくて、掘り出すように探すっていう...。

森嶋:なるほど、だから上下の2層構造なんですね。私は上の層がお気に入りです(...と、バックパックのジップを開け始める)。

象印マホービン コクヨ 開発秘話 対談

事前にお渡ししていたバックパックを取材当日も持ってきてくれた森嶋さん

:うわー! すごくきれいに使ってくれていますね...! 野帳も入ってるし!

森嶋:特にこのデイパックのふたにあたる部分にある、大きなポケットが万能なんですよ。内側と外側の両方から出し入れできる上に収納力も高いから、日よって微妙に変わる持ち物にも対応できてすごく便利。あと背中側のポケットも3室に分かれていて、ここにはスマホ、ここは充電器、ここは社員証というように、入れるものを決められるのが快感で(笑)。

木下:そうおっしゃってくださると、とっても嬉しいです! 3つのポケットは、あえて幅を変えています。モバイルワーカーが持ち歩いているものに合わせて、サイズ調整を重ねました。

コクヨ THIRDFIELD スタンドバックパック ビジネスリュック ポケット

サイズ調整を重ねたバックパック上段の3つのポケット

:大きければいい、というわけではないんです。机の引き出しでも、使わないものがずっと眠っていたり、妙にすき間ができて気持ち悪いときがありますよね。

森嶋:わかる! そういうのが嫌で、昔、1万円くらいかけて引き出しに仕切りをつけたことがあります。周りには驚かれたけど。

:プロジェクトでも「ポケットの用途が決まっていて、つくり手の意思が感じられるほうが嬉しい」という声が多く上がりましたね。

森本:つくり手側で決めるって難しいと思うのですが、きちんと有用性のあるものに仕立てるところはさすがですね。

伴・木下:ありがとうございます!

領域が変わればつくりも仕様も売り方も変わる

森本:同じ縫製商品でも、ペンケースやポーチとバックパックでは開発に違いはありましたか?

木下:いちばんは、屋外を想定することですね。あくまでもバッグなので、風雨や紫外線にさらされることも考えないといけない。サイドポケットに雨よけをつけたのは、入社して初めてのことでした。それからスタンド部分。独自のしかけだから、参考にできるものがなくて。側面にあたる三角の布の部分は、最初は布テープを縫いつけていました。ところが畳んだときに、昆虫の羽根みたいに飛び出てしまって。何度も試して今の形に落ち着きました。

:逆に文具のノウハウが、生きたところもあるよね。

木下:たとえば内生地の色は、過去に開発した、「Bizrack up」というバッグ・イン・バッグの工夫が参考になりました。外生地より明るい色にすると、入れたものが探しやすいんです。留め具の一部にマグネットを活用したのも、文具から得たアイデアですね。だけど時計やカードなど磁力の影響を受けやすいものへの考慮は、カバンのほうが気を遣いました。

森本:初めての分野だと、検査項目を決めるのも難しそう。

木下:もう検査部や生産調達も巻き込んで、ゼロから項目をつくりました。

コクヨ株式会社 文具開発部 商品開発 木下郁WeWorkなんばスカイオでのディスカッションにも参加した木下。
おおよその仕様が固まった後も、ジッパーやマグネットのつけ方、内側の生地の色など細かい部分にも気を配る

売り場がない!?新領域ゆえの難しさも

森嶋:製造以外のところで、調整が必要だったところは?

:営業からは「お店のどこに置いてもらうの?」と聞かれましたね。大型店だと文具とカバンでは売り場が違いますし。ましてや、これまで縁のない専門店にバックパック1本で売り込みをかけるのは厳しいと。

森嶋:確かに。

:片やそれなりの価格なので、ネットで情報を集めてEC経由で買う人もいるだろうという話になり、プロモーションチームと戦略を考えました。小売でもTHIRD FIELDの世界観を伝えることを優先し、シリーズで並べてもらえるお店を中心にアプローチしましたね。

木下:バックエンドは物流管理が今後の課題ですね。お客様に安定して商品を届けるのに、在庫の持ち方や品質管理の考え方は、文具とは違った視点が求められていると感じます。

森嶋:うちの社内でも、似たような話はありますね。モノづくりは既存の販売ルートを想定して企画するし、でも新たな販路を開拓しないとシュリンクしてしまう。品質管理は過去の実績によって担保できるところもあるけど、そこに縛られて新しい要素を取り入れられないのでは進化や変革が遮られてしまう。

木下:難しい課題ですね。

森嶋:これだけ価値観も嗜好性も多様化した今だから、万人受けするモノづくりでは結局誰にも受け入れられない流れになっている気がします。今回私たちが企画したキャリータンブラーも、とにかくコンパクトなものが良い!という方にはあわないかもしれない。ただ、その層に受け入れられないことは織り込み済みで、残りの人たちのお気に入りになればいいと思ってつくりました。

:今のお話って、まさにこのバックパックでも言えることで、ECサイトのレビューを見ると、評価が二分しているんですよ。「こんなのが欲しかった!」とご愛用くださる方もいれば、「何だこれ⁉」という方もいる。合わないのは残念ですが、その方のニーズはまた別の形で満たせばいいのかなって。すべての人に受け入れられようとして、その商材の特性が霞んでしまうのでは本末転倒に感じます。

コクヨ株式会社 文具開発部 商品開発 木下郁 商品企画 伴和典

創り出した価値の届け方や継続的な提供の仕方はメーカー変われど悩みは同じ

 

デジタルだけでは得られないワクワク感をこれからも

森本:話は変わるのですが、文具業界にとってデジタルの存在って脅威なのでしょうか?

木下:うーん、これも難しい(苦笑)。当社でも日ごろ情報の記録や共有など、デジタルの恩恵を受けていますから。働き方の多様化もデジタルなしには成し得ないでしょうし。

:ところが、昨年からノートやメモの売れ行きが悪くないんです。テレワークが進み、オンライン会議のときに画面共有などをしているとPC上ではメモを取るのが難しくて、手書きにスイッチした人が一定数いるそうです。働き方が変わるということは、行動も変わるということ。アナログの良いところを、付加価値やストーリー性と合わせて提案ができれば、文具もまだまだ可能性が広がると感じています。

森嶋:文具って、手にしたときのワクワク感がありますよね。これを使うことで、自分がバージョンアップする、楽しい未来が待っているというような期待。

森本:確かに学生の頃とか、新しいノートを買うとモチベーションが上がりましたよね。「これで頑張るぞ!」って。

森嶋:この感覚って、デジタルではなかなか味わえないですよね。さらに僕がカバンに入れていた野帳だって、数百円で買えるものです。子どもから大人までわずかな金額でワクワクさせることができるのは、文具の特権ですよ。正直うらやましい。僕らの扱う水筒やタンブラーだと数千円はしますし、売り場の数も文具のほうが圧倒的に多いですしね。

木下:とても励まされました。ありがとうございます。

:社外の方からこうした声が聞けるとは。これからも、ワクワクを届けられるように頑張ります!

------

お互い領域は異なるものの、商品開発の面白さと苦悩の両方を知るだけに、全編を通じてディープでニッチな展開となった座談会。話題は尽きず、予定時間を越えて対話が繰り広げられました。新たな刺激を受け、モノづくり魂に火がついた4人の様子が印象的でした。

▼「商品開発に見るLifeWorkの交差点(前編)」はこちらから
持ち運びできる保温・保冷力に優れたタンブラー、その裏側の真実

THIRD FILEDシリーズ

THIRD FILEDシリーズ

「さぁ、オフィスを持ちだそう」をブランドメッセージとして掲げ、収納用品としての移動中の快適さに、仕事中に活用できる機能を加えることにより、場所を選ばない働き方の環境作りをサポートします。自立する機能を持ち省スペースで使用できるバックやポーチのシリーズです。

この記事を気に入ったら、
シェア&ブックマークしましょう!