2018.11.30
第4回「キャンパスアートアワード2018」激戦の末、グランプリに選ばれたのは...?
2018年10月26日、読売新聞社東京本社内(東京都千代田区大手町)で、第4回「キャンパスアートアワード2018」の最終審査会が行われました。審査員の苦悩の叫びが飛び交う熱い審査会のようすをお届けします。
今年で4回目となる「コクヨキャンパスアートアワード」
キャンパスアートアワードは、コクヨ、読売中高生新聞(発行所 読売新聞東京本社)が共同開催する、中高生を対象としたコンテスト。『My Sweet Home Town~地元のイチオシ~』をテーマに、自由に絵を描いていただき、グランプリに輝いた作品は「キャンパスノート」の表紙になるというビッグプロジェクト。後援には、文部科学省、観光庁も名を連ねます。さらに今年はAKB48チーム8から選ばれた6名のメンバーが応援団に就任し、コンテストを盛り上げてくれました。
作品の募集期間は、2018年6月1日から9月14日。40の都道府県から約1200点の作品が寄せられました。これらの作品のなかから、地区審査、そして最終審査を経て、グランプリ(1点)、読売中高生新聞賞(1点)、コクヨ賞(1点)、AKB48チーム8賞(1点)、地区優秀賞(6点)が選出されます。
実はこれまで過去3回にわたり、グランプリを獲得したのは、すべて関東地区の中学生。さて今回は!?
作品のレベルがさらにアップ!とことん悩み抜く審査員たち...
審査室には、各地区から審査によって選ばれた36作品がずらりと並びます。
地区審査を経て選ばれた作品たち
全国から集まった作品が並ぶようすは圧巻
「すごい!」「またレベルアップしてる!」入室早々、審査員からは感嘆の声が。
今回の審査員は、初回から参加しているお笑いグループ「パップコーン」のリーダーでネコの人気キャラクター「フテネコ」の作者でもある芦沢ムネトさん、昨年から2度目の参加となる美大卒で現在も制作活動を行っているタレント・モデルのベックさん、そして今年初参加となる、写真のようにリアルな作風が人気を博している色鉛筆画家の林亮太さんの3人。
「やっぱり原画は迫力があるね」「構図が凝っている!」「色使いが素晴らしいね」などなど、なごやかに話しながら、ひとつひとつ作品を見たあとは、気になる作品を付箋でマークしていきます。まずは、各審査員がぞれぞれ5作品選ぶことに。
作品を前に真剣な眼差しで議論する審査員の皆さん
「どの作品も捨てがたい!」「グランプリの作品数、増やしちゃだめですか?」「個人的にはこれが好きだけど、ノートの表紙にしたときにどうかな」などなど、選択に苦悶しつつも和気あいあいと審査は進みます。
長時間の審査を経て、映えあるグランプリが決定
開始から30分を経過して、6作品まで絞られました。続いて、1人2作品選び、やっとのことで4作品にまで絞り込みました。審査員全員、息することも忘れるほどの集中力で、真剣に審査を進めます。最後は全員で「これこそグランプリ」と思う作品を「せ~の!」で指差し。
1時間半におよぶ審査の結果、グランプリが決定しました。
今回は、中部地区代表である愛知県・名古屋市立工芸高等学校3年の久保山莉恵さんによる「赤い電車の春」がグランプリに輝きました。初の関東地区以外、かつ高校生による作品がグランプリ受賞となりました。読売中高生新聞賞は「夜の航空公園」(埼玉県/東星学園高等学校1年/筋野古都美さん)、コクヨ賞は「大好きな町 鎌倉」(神奈川県/横浜市立美しが丘中学校3年/竹野綾さん)が受賞しました。
作者の皆さん、受賞おめでとうございます。約2時間の審査を終えて、ほっとしたようすの審査員の皆さん。作者の思いを汲みながらの厳正なる審査、お疲れ様でした。
審査員に聞く「この作品のここが好き!」
審査員の皆さんに、選考理由を聞きました。
<グランプリ>「赤い電車の春」(中部地区代表・愛知県/名古屋市立工芸高等学校3年/久保山莉恵さん)
作者のコメント:名古屋の人にとって身近なこの赤い電車はどんな景色にも合って街に彩りをくれます。最近では新型車両の導入が増え、赤い電車が減りつつあるのでいつまでも名古屋の街を走ってほしいという思いで描きました。
芦沢さん:個人的にも一番好きな作品です。まず画力がすごい。でも、よく見ると、名古屋名物のエビフライや手羽先が絵の中に隠れているんですよ。皆さん気づきましたか?「大人を楽しませてやろう」という策略が見え隠れして、見ていて飽きない絵ですね。
ベックさん:そうそう。楽しいですよね。こんなところに手羽先が描かれているなんて、誰も思わない。ほかにもなにかあるんじゃないかなと探したくなる。ワクワクする絵です。
林さん:電車の赤と空の青という鮮やかな色彩のコントラストが目を引く印象的な作品ですね。電車の緻密な描写から察するに、電車好きな男子の絵かと思ったのですが、これが女子生徒の作品ということにも驚きました。圧倒されるくらいのテクニックと表現力があります。
<読売中高生新聞賞>「夜の航空公園」(関東地区・埼玉県/東星学園高等学校1年/筋野古都美さん)
作者のコメント:航空発祥の地という有名な公園でも、幼稚園生からお年寄りまでのおさんぽ道になる憩いの場所です。ライトアップされた飛行機ときれいな星が見え、昼間の余韻の僅かに残った夜の航空公園が、私の地元のイチオシです。
ベックさん:明るい空を飛ぶ飛行機はよく見るけれど、夜にライトアップされた飛行機を描いているところに意外性があり、幻想的で好きです。これからどこに飛んでいくんだろうと想像が広がりますね。こんな表紙のノートがあったら、勉強用だけでなく、旅の記録用ノートにしてみたいですね。
芦沢さん:この公園には何度か行ったことがあるのですが、実物よりカッコイイ(笑)。絵って見たとおり描けばいいわけではない。きっと作者は、この風景、この時間、このアングルで見る飛行機が一番カッコイイと思って、魅力を最大限を表現したかったんだと思います。気持ちが伝わってくる作品ですね。空の表現もとても上手です。空って難しくてなかなかここまで描けない。
林さん:そうなんです。普通、この年代の子どもたちが夜景を描くとしたら、空を黒や濃紺で描くと思うのですが、この作品は空を鮮やかな青で描いているんです。他の対象の色合いとのコントラストの効果で、ちゃんと夜景に見えるように工夫しているのがすごい。それに、飛行機の造形を描くのって想像以上に難しい。とくにこの作品のモチーフになっている機種って難しいんですよ。作品全体の雰囲気のよさと画力の高さがそなわった、レベルの高い作品ですね。
<コクヨ賞>「大好きな町 鎌倉」(関東地区・神奈川県/横浜市立美しが丘中学校3年/竹野綾さん)
作者のコメント:鎌倉は家族や友達とよく訪れる大好きな場所です。町を見守るように座っている大好きな大仏や江ノ島の美しい海、華やかに咲く紫陽花、それらによって構成される鎌倉の伝統的な雰囲気全てが私のイチオシです。
ベックさん:色使いがすごくきれい。構図もよく考えられていて、中学生の作品とは思えないですね。鎌倉の魅力がストレートに伝わってきて、ここに行ってみたい!と思いました。
林さん:大仏、江ノ島、江ノ電、紫陽花など、異質なモチーフをうまくコラージュしていて、構成の巧みさを感じさせます。江ノ電がこちらに走ってくる構図も迫力があります。デザイナーとしてのセンスがあると思いますよ。
芦沢さん:僕は鎌倉出身なのでついひいき目に見てしまいますが(笑)それを差し引いても、力のある作品だと思います。絵の中に描かれた大仏、江ノ電、紫陽花なども、「地元のイチオシ」のテーマに沿った納得のチョイスです。
アワード全体を振り返って
最後に、今回のキャンパスアワード2018全体を通しての総評をいただきました。
「選ばれなかったからといって作品がよくないわけではない」林亮太さん
事前資料で、全作品の写真は見ていたのですが、実際に原画を見てみると、印象が全然違う。絵に強さがあります。どの作品も、「これを描きたい」という強い気持ちが伝わってきますね。
「絵を描く者として審査される側の気持ちが痛いほどわかります」色鉛筆画家・林亮太さん
僕も、同じ絵を描く人間として、自分の作品が審査で落とされる気持ちはわかるので、作品を選ぶときには心が痛みました。でも、選ばれなかったからといって、作品がよくないわけではないんです。それを知ってもらうためにも、賞から外れてしまった作品も含めて展覧会を開催し、原画を見てもらえる機会ができるといいですよね。このアワードもそうですが、発表の機会は、中高生にとって、とても励みになると思います。
「大人をびっくりさせてやろう!という意気込みが伝わる」芦沢ムネトさん
第1回目から審査員として参加し、今回が4回目。年々作品のレベルが上がっているのを感じますね。ただ上手になっているだけでなく、「大人をびっくりさせてやろう!」という意気込みを感じさせる作品が増えている気がします。こっちも負けていられないですね!(笑)
第1回から審査員として参加している芦沢ムネトさん
前回の受賞者の後輩が先輩の意志を継いで応募するなど、今回も数々のドラマがありました。絵を通して子どもたちの成長を見守っているような気持ちになります。審査に参加できて嬉しいです。
「作者の気持ちを知ると、どの作品も愛おしい」ベックさん
去年も選考にすごく悩みました。絵だけでなく、絵の裏に書かれた、作者のコメントを読むと「あ~、こんな思いで描いたんだなあ」と理解が深まって、また違った良さが見えてくる。どの作品も愛おしくなって、ますます決めかねてしまいます。
作者のコメントにも熱心に目を通す姿が印象的だったベックさん
今回賞に選ばれなかった作品の中にも、好きな絵がたくさんあります。これから応募する方は、どうせ選ばれないかも、とネガティブに考えないで、勇気を出して応募してほしいです。これからもいろいろな作品が集まるのを楽しみにしています!
<取材を終えて>
第2回目から、この審査会を取材している筆者。私が見ても、作品のレベルが年々アップしているのが感じられ、その中から3点に絞るのは至難の業だと思います。
迷いつつ付箋を貼ったりはがしたりする審査員たち。最後は、選外になった作品たちに「ごめんね」の声をかける優しい審査会です。取材を通して、賞に選ばれなかったものもすべて心のこもった素晴らしい作品だということがよくわかります。
「忘れられつつある地元の伝統行事を守りたい」「自分の大好きな地元の名物を広く知ってほしい」など、作品に込められた想いに思わず胸が熱くなりました。来年も、皆さんの作品を楽しみにしています!
(文:石井栄子/撮影:市原達也)