2017.11.17
今年で3回目「キャンパスアートアワード2017」最終審査...グランプリは埼玉県中学1年生の作品に!
2017年10月18日、読売新聞社東京本社内(東京都千代田区大手町)で、「キャンパスアートアワード2017」の最終審査が行われました。
キャンパスアートアワードは、コクヨ、読売中高生新聞(発行所 読売新聞東京本社)が共同開催する、子どもたちの知性を育み、手書きの良さを伝えることを目的とした中高生対象の絵画コンペティションです。
『My Sweet Home Town~地元のイチオシ~』をテーマに、地元の風景、風俗、風習、行事、料理、菓子などを題材にした絵画作品を募集しました。グランプリを受賞した作品は、コクヨのロングセラー「キャンパスノート」の表紙になるというのが最大の特徴。2017年6月1日から9月9日の約3か月間で、約1400点の作品が全国から寄せられました。
なかなか決められない!3人の豪華審査員メンバーたちによる熱い最終審査
審査員は、お笑いグループ「パップコーン」のリーダーで「フテネコ」のイラストの作者でもある芦沢ムネトさん、テニス漫画「ベイビーステップ」の作者である漫画家、勝木光さん、現役の美大院生でタレント・モデルとしても活躍中のベックさんの3人。
全国から寄せられた約1400点の作品は、事前審査で高校生の部18点、中学生の部18点までに絞り込まれ、3人の審査員によって最終審査が行われました。
審査室には36点の力作がズラリと並ぶ
審査会場には事前審査を通過した36点の作品がズラリ。入室するや否や、「これは今年ももめそうだな」と漏らしたのは、3年連続審査員を務めている芦沢さん。今年初の審査員となったベックさんは「うわー、きれいな作品!」と目をキラキラと輝かせていました。今年2回目の勝木さんは、絵を見る視線が真剣そのもの。
真剣に作品に見入るベックさん
まず、各審査員がそれぞれ5作品を選ぶことになりました。2票以上を獲得した作品だけが残り、次の審査へ。3点まで絞り込み、最後の投票で最も多くの票を集めた作品がグランプリ、2作品は、読売中高新聞賞、コクヨ賞がそれぞれ贈られます。
作品に込められた思いが伝わり今年も大混戦
3年連続で審査員を務める芦沢ムネトさん
「どれもレベルが高い」「この作品、すごく好き!」「上手じゃないけど迫力があるね」「構図がすごく凝っている」「細かいところまでよく描きこんでいるね」...和気あいあいとお互いに感じたことを話しながら一通り作品を見た審査員の方々、いよいよ投票する段になると「選べないなあ」と苦渋の表情に...。作品に添えられたコメントには、作者の作品に込めた思いが書かれています。一生懸命描いてくれた作品に甲乙をつけるのはなかなか苦しい様子。
作品の裏に書かれた作者のコメントもしっかりチェック
「ひとり10作品選んじゃだめですか?」とベックさんが悲鳴をあげる一幕もありました。
最終的に、5作品に絞った時には「この作品に1票!」「やっぱりこっち!」「あ~迷う~!」と大混戦に。
1人5票が審査員の持ち票。2票以上集めた5作品が残った
およそ1時間半におよぶ審査の末、
グランプリ「越谷のいい所」(埼玉県越谷市立中央中学校/中学1年生/後藤 杏菜さん)
読売中高生新聞賞「薄暮の海」(千葉県立市川工業高等学校/高校2年生/荒川 葵さん)
コクヨ賞「奴道中」(静岡県榛原郡吉田町立吉田中学校/中学1年生/増田 大夢さん)
が選ばれました。
大激論の末、3作品に絞られた
審査終了後、未だ興奮冷めやらぬ中、審査員のみなさんに作品を選んだ理由と、キャンパスアワードに参加しての感想を聞きました。
作品としての完成度だけでなく、その人らしい着眼点が魅力
<グランプリ>>
「越谷のいい所」(埼玉県越谷市立中央中学校/中学1年生/後藤 杏菜さん)
作者のコメント:越谷市は、だるまが有名です。他にもいちごやくわい、ネギ、チューリップなど埼玉県越谷市の特産物をこの絵につめこみました。右上のピンクのだるまは、願いがかなったら、目を入れられるようにしました。
芦沢さん:いろいろな向きのたくさんのだるまを描いていて、普通ならごちゃごちゃした絵になりそうなのに、デザイン的にまとまっている。一番気に入ったのは、「愛」と書かれただるまを真ん中ではなく端っこにおいた奥ゆかしさですね(笑)。この作品を描いた作者も恋愛しているのかな、目が入っていないから、恋愛成就したら目を入れるのかな...と考えてしまいました。
勝木さん:だるまって目を入れて祝うもの。初めからだるまの本質をちゃんとわかって描いているところが素晴らしい。ひとつのだるまだけ目を入れていないという仕掛けもうまい。たくさん描かれただるまはすべて向きや表情が違う。ディティールに凝っているのでずっと見ていても飽きない。応募作の中で群を抜いて面白い作品だと思いますね。
ベックさん:私も目の入っていないだるまがあるのがいいと思いました。目を入れたら自分だけのマイノートができあがりますよね。人にプレゼントしても喜ばれそうです。どのだるまも同じ赤で描かれているのに、ひとつひとつがちゃんと存在感があるのがスゴイと思います。また、だるまとだるまの間にネギやイチゴなど、地元の名物もさりげなく入っている。その入れ方もセンスがよくて、全体的に気持ちのいいバランスになっていますね。
<読売中高生新聞賞>
「薄暮の海」(千葉県立市川工業高等学校/高校2年生/荒川 葵さん)
作者コメント:キャンパスアートアワードの作品としてずっと描きたいと思っていた、自慢の風景です。木更津の「江川海岸」といい、満潮になると電柱が沈みまるで鏡のような幻想的な風景になります。実際見た感動を表現できたと思います。その感動が作品を見た人にも伝わればいいなと思います。
勝木さん:構図がすごくいい。夕暮れの感じ、煙突から上がる煙の感じがよく描けている。水面もうまく表現できています。今回だけでなく、これまでの全作品の中でも一番上手なのではないでしょうか。ファンタジーの世界みたいで好きですね。ここに行ってみたいという気持ちになります。
<コクヨ賞>
「奴道中」(静岡県榛原郡吉田町立吉田中学校/中学1年生/増田 大夢さん)
作者コメント:住吉神社の伝統の大名行列を描きました。真夏の暑さにも負けない、大きなかけ声が迫力があり印象に残っていたので描くことを決めました。
芦沢さん:この人物の表情がとても好きですね。"顔賞"をあげたいくらい(笑)。絵ってうまければいいってわけではないと思っているんです。この絵より上手な絵はたくさんあるけれど、絵から出る勢いというか、中学生のこの時期にしか描けないシュール感、他の人にはまねできない、その人にしかない"味"のようなものがあって、すごく気になる作品です。
最終審査へ参加した感想と来年への期待
--芦沢さんは唯一、第1回目から審査員をしていただいていますが、3回を通して感じることは?
芦沢さん:毎年もめるということがわかりました(笑)。年々、作品のレベルが上がっていますね。写実的でものすごく上手な作品もあれば、細部まですごく描きこんでいる作品など、バリエーションも広がっている。3回目なのでみんな賢くなって、ノートの表紙になることをちゃんと意識して描いている作品が増えているように思います。反面、1、2回目に見られたような、ぶっとんだ発想の、勢いだけはあるぞ、みたいな作品が少なくなったのがちょっとさびしいかな。
じっくり絵を見ていくと、本人の狙いやこだわりがだんだんわかってきて、最初の印象とはまた違った目で見るようになります。「なんでここにこれを描いたんだろう」という謎が、何度も見るうちに「あ、そうか」とわかったり。私も絵を描きますが、伝えようとすれば伝わるものなんだなと、勉強になりました。
「人の作品を見ることで勉強になった」と、美大出身でご自身も絵の描き手である芦沢さん
--勝木さん、マンガ家の立場から見て、今回の応募作品をどのように感じましたか?
勝木さん:キャンパスアートアワードが他のコンテストと違うのは、絵がノートの表紙になるということと、「地元のイチオシ」がテーマということ。単なる画力勝負でなくて、ノートになったときにどう見えるか、地元愛をどう表現するかもポイントになります。絵としてのレベルの高さとか技巧ではなく、着眼点の面白さや、メッセージ性が問われるところはマンガに近いものがありますね。
今回は、マンガの表現を使った作品もありました。マンガ絵ってあまりコンテストに応募されることはないですが、正統派の写実的な作品の中に、そういう作品が混じっている「何でもあり感」も、キャンパスアートアワードの面白いところですね。
--唯一の現役美大院生のベックさん、参加していかがでしたか?
ベックさん:今回初めての参加で、とても楽しみにしてきました。色々なタイプの作品があって、それぞれの違いを見るのは楽しかったです。シールを貼り重ねて作った作品や、モザイク模様で波を表したり、切り絵があったり、いろいろな技法を使っていて面白かったです。私も普段、絵を描いていますが、きれいな絵よりもこの人でないと描けないだろうなという絵に惹かれます。作品を通して、いろいろな地域の名物や自慢のものを知れることもキャンパスアワードのいいところですね。実際にその地域を訪れて実物を見てみたくなりました。
ノートの表紙になるという目で見ると、やはり元気で楽しい絵がいいですね。ノートって試験勉強のときが一番よく使う。勉強って苦しいことも多いから、そんなときに勇気づけてくれるノートがあったら買いたくなります!
「元気の出るノートが好き」と、現役の美大院生のベックさん
--来年は、どんな作品を期待しますか?
芦沢さん:過去に応募してくれた作者がまた参加してくれるといいですね。「こんなに成長したんだ」というのを見てみたい。その反面、あまり上手にならないでね、という気持ちもあるのですが...。その人らしさをずっと残しながら成長してほしいですね。それと、あまりアワードの"傾向"みたいなものを作りたくないので、毎年全然違ったタイプの作品が出てくるといいと思います。
勝木さん:「地元のイチオシ」ということでだれでも知っている名所や名物を描いている人が多かったですが、有名ではないけれど自分だけが知っているお気に入りの場所を描いた、という作品があってもいい。「自分はここが好き!」という作品をもっと見てみたいです。
ベックさん:ピカソもどんどん絵が変わっていったように、成長するとともに違った世界を見せてほしい。でも、その人にしか描けないもの、今しか描けないものや線、その人らしさを持ち続けてほしいです。いろいろな意味や想いが込められた自分だけの"マイノート"を作ること、その自分が作った"マイノート"を誰かにプレゼントできることってすごく素敵だと思います!
「来年も面白い作品、お待ちしています!」
<取材を終えて>
昨年に続き、2度目の取材。審査員の方々もおっしゃっていたとおり、全体的に作品のレベルがぐっとアップした印象。今回も審査員それぞれの好きな作品が分かれ、すんなりとは決まりませんでした。工夫、意外性、インパクトなど、見る人の心をつかむポイントがそれぞれ違うのですね。でも、グランプリになったのは、審査員だけでなく、同席した関係者たちも納得の作品。ただし、選ばれなかった作品も、迷った末、泣く泣く外したというのが本当のところ。ぜひ、次も挑戦してほしいと思います!
(文:石井栄子)